KEKでは、最先端の大型粒子加速器を用いて、宇宙創生の謎や物質や生命の根源など、人類の知に貢献する基礎研究を推進しています。
この世界にある物質は、分子や原子の組み合わせからできています。その原子は原子核と電子から、原子核は陽子と中性子から構成されています。さらに陽子と中性子の中を探ると、最も小さな構成要素-素粒子-ある「クォーク」にたどり着きます。そうした素粒子や原子核などを調べるのに欠かせないのが、電子や陽子などの粒子をほぼ光の速さまで加速して、高エネルギーの状態を作り出す高エネルギー加速器です。この高エネルギー状態から作られる素粒子の世界を研究すると、誕生直後の宇宙の様子を探ることができます。一方、分子や原子の無数の集まりは私達の周りの様々な物質を構成し、そのなかには、私たちのような生物も含まれます。加速器は、原子や分子レベルで物質の構造や機能を調べたり、また生命現象を解き明かしたりするうえでも強力な手段となります。
宇宙・物質・生命の研究
宇宙は約138億年前のビッグバンによって始まったと考えられています。宇宙が出来た当初は素粒子の世界でした。天文学では望遠鏡や人工衛星を使って天体を観測しますが、KEKは加速器を使って宇宙の初期状態を人工的に再現することで宇宙の起源に迫ろうとしています。
また、さまざまな物質・生命の構造や機能を原子や分子のレベルで詳細に観察するのに使われるのが、光速近くまで加速した電子の軌道を曲げたときに生じる「放射光」という強い光や、高速の電子を金属標的に衝突させて発生させエネルギーを揃えた「低速陽電子」、加速した陽子を標的に衝突させ発生させる「中性子」や「ミュオン」などの量子ビームです。それによって、物理学、化学、生物学、地学、医学、薬学、歴史学(文化財)など幅広い分野の研究を行います。近年では、生命現象を知るための電子顕微鏡も活用されています。
日本原子力研究開発機構(JAEA)と共同で運営しているJ-PARCでは、大強度陽子ビームを利用した素粒子・原子核の研究、および中性子・ミュオンによる物質生命科学の研究が進められています。
新しい加速器科学に向けて
欧州の大型ハドロンコライダー(LHC)で、素粒子に質量を与えるヒッグス粒子が見つかりました。質量の起源とされるこの粒子は、素粒子の「標準理論」を完成させる最後のピースになるはずでしたが、発見された粒子は標準理論だけでは説明できない性質を持っており、新しい物理の探索が求められています。
放射光分野では、異なるエネルギー領域、空間領域、時間領域の放射光を駆使して統合的に研究する時代が到来しています。一部の性能だけ先鋭化した加速器では物質に内在する情報の一部しか引き出すことができません。多様な情報を同時に得ることのできるような、新たな光源加速器技術が求められています。
KEKは、これらに対応する研究計画を策定することを我が国の加速器科学の喫緊の課題と認識し、今後取り組むべき研究の指針である「KEK ロードマップ」の最新版を2021年に策定しました。それを具体的に進めるための実施計画としての「KEK Project Implementation Plan(KEK-PIP)」も策定し、2022年度から6年間、その実現に向けての取り組みを進めます。
新物理探索に向けて大きな期待がかかる電子・陽電子衝突加速器である国際リニアコライダー(ILC)を国際協力で推進することや、次世代の放射光施設であるハイブリッドリング計画の実現などを目指します。