サイエンスアゴラ2024に出展しました

ダークマター研究の未来に期待!

科学技術振興機構(JST)が主催する対話・共創の活動「サイエンスアゴラ2024」が、東京・お台場のテレコムセンタービルと日本科学未来館で開催されました。KEKは10月27日にステージ企画「ダークマター研究の未来 君ならどう挑む?」を実施しました。


宇宙の25パーセントを占めるダークマター。ダークマターとは、宇宙に存在すると考えられている、光などの電磁波では観測できない未知の物質です。ダークマターの正体は未だ明らかになっておらず、現在さまざまなアプローチから研究が進められています。この企画では、3人のダークマターの専門家がこれまでの研究で分かったことや、研究方法を紹介。その後、参加者の皆さんにどの研究に関わりたいか、三つの研究方法の中から選んでもらいました。

企画の流れ

まずはダークマターとはどんなものか、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(IPMU)村山 斉教授から説明。ダークマターがないと星も銀河もできなかったということから、ダークマターを「私たちの生き別れのお母さん」と表現したり、光を出したり吸ったりしないことから「暗黒物質」よりは「透明物質」と言ったほうがイメージに近いと説明したりと、分かりやすい例えを用いて、ユーモアあふれる解説が行われました

ダークマターについて解説する村山教授

続いて3人の研究者からの研究アピールタイムへ。KEK/量子場計測システム国際拠点(WPI-QUP)の茅根 裕司(ちのね ゆうじ)特任准教授、KEK素粒子原子核研究所の石川 明正准教授、東京大学宇宙線研究所附属神岡宇宙素粒子研究施設の森山 茂栄(もりやま しげたか)教授の3名がそれぞれどんなアプローチで研究をしているかそれぞれ説明しました。

茅根特任准教授は「空を見上げてダークマターを探す」アプローチとして宇宙マイクロ波背景放射(CMB)観測プロジェクトである「ポーラーベア実験」について紹介しました。ポーラーベア実験は、CMBの偏光を観測して、初期宇宙の誕生や現在の宇宙の大規模構造を解明することを目的とした国際共同実験。チリのアタカマ砂漠に設置された望遠鏡で行われている観測から、ダークマターが質量の小さな粒子である可能性を示唆する結果が得られたことが説明されました。

宇宙マイクロ波背景放射(CMB) 観測について解説する茅根特任准教授

石川准教授は、現在SuperKEKB加速器を使って行われているBelle ll実験で、ダークマターが生成される可能性があると説明しました。Belle ll実験は、素粒子である電子とその反粒子である陽電子を衝突させて、宇宙初期に起こったはずの極めて稀な現象を再現し、未知の粒子や力の性質を明らかすることを目指す実験です。衝突からダークマターが生成された際に、どのような観測結果になるのかシミュレーションした図を見せながら、研究が進んでいることを示しました

Belle ll実験で観測される可能性のある粒子について説明する石川准教授

森山教授は「空から降ってくるダークマターを捕まえる」ための「XENONnT(ゼノンエヌトン)実験」を紹介。XENONnT実験は、まさにダークマターの正体を明らかにすることを目的とした実験です。イタリアのグランサッソ国立研究所の地下施設に設置された液体キセノンを満たした検出器を用いて実験が行われています。森山教授はこの検出器を虫かごに例えて、ダークマターをそこに捕らえられるトンボに例えて解説。「ダークトンボ」は虫かごをすり抜けてしまうがまれにトンボが虫かごに「蹴飛ばされる(ぶつかる)」と思われているとのこと。XENONnT実験はダークマターが蹴飛ばされる材料をたくさん用意して、蹴飛ばされる瞬間をたくさん記録し研究しようというアプローチであることを説明しました。

ダークマターを検出器に捕らえられるトンボに例えて解説する森山教授

3人の研究紹介が終わったあとは質問タイム。「(石川准教授が見せたダークマター観測のシミュレーション結果について)ダークマターの測定結果がどうしてそのような特徴になるのですか?」「(森山教授へ)真夜中にダークマターが検出されたらどうするのですか?」という質問が飛び出しました。

質問に答える森山教授

そのあとはいよいよ1回目の研究選びです。会場は赤、青、緑のカーペットで色分けされており、どの研究に興味を持ったか席を移動して示してもらいました。石川准教授の加速器実験が一番多いという結果に。

参加者が席を移動する様子

よりたくさんのファンを獲得すべく、2回目の研究アピールには熱がこもりました。テーマは「研究のイチオシポイント」。登壇者がこの研究のどんなところを魅力に感じているか熱弁してもらいました。
茅根特任准教授は「普段は行けないところで宇宙の果てを見られる!」と、実験場所であるチリのアタカマ砂漠での生活を紹介。「大変なことも多いが、解析しているその瞬間『宇宙の真の姿』に自分が最も近づいている、自分だけが知っていると思うととても興奮する」と語りました。

茅根特任准教授がチリのアタカマ砂漠での実験の様子を紹介している様子

石川准教授が加速器実験に魅力を感じる点の一つは、世界中の人と一緒に実験をすることだと言います。「世界各国の人と協力して目的を実現することは世界平和にもつながると期待しています」と思いを語りました。

実験中の写真を見せながら国際協力について語る石川准教授

森山教授は「XENONnT実験は身の回りを飛び交うダークマターを直接調べることができること」が魅力だと言います。「ダークマターがぶつかってくる方向を観測しダークマター天文学へも発展する」と研究の発展性にも触れました。

研究の発展性を語る森山教授

その後村山教授からも質問を投げかけられ、登壇者の実験に対する思いがさらに引き出されました。「チリでの実験中は食事はおいしいんでしょうか?」という質問は茅根特任准教授を困らせ、会場の笑いを誘いました。

どの研究も魅力的に思えたようで、2回目の研究選びは白熱しました。最終的には僅差で森山教授の前に最も多くの参加者が並びました。

最後にまとめに変えて「研究の将来性」について語ってもらいました。茅根特任准教授は、宇宙へ望遠鏡を飛ばし宇宙でダークマターを探せる可能性について、石川准教授は将来計画である世界最長の直線加速器「国際リニアコライダー(ILC)」でダークマターが作れる可能性について、森山教授はより大きな検出器を作り、ダークマターを詳しく研究できる可能性について展望を語りました。特に、森山教授の空から降ってくるダークマターを捕まえる研究に関し、過去20年以上にわたり世界の実験グループが離合集散を繰り返した歴史があり今後も世界中の研究者が一緒に研究するかもしれない、という話は、Belle II実験の国際性とも相まって、参加者の心を強く打ったようでした。

「研究の将来性」について語る茅根特任准教授、石川准教授、森山教授

参加者からは「ダークマターという一つの目標に向かって、さまざまな方法でアプローチしているという事が大変興味深く感じ、今後の成果が大変楽しみになった」「ぜひ自分もダークマター研究者の一人となって宇宙の起源やその終わりについて知りたい」などの感想が寄せられました。
参加者との対話によって、ダークマター研究の将来を見せることができました。

充実した時間に全員大満足

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