POP into サイエンストーク「ピロリ菌を調べてみた。」で語り合ったこと

つくば駅前の商業施設で特設展示に関連したイベントを行いました

POP into サイエンストークのようす

6月23日、つくばエクスプレス(TX)つくば駅前にある商業施設トナリエつくばスクエア内で、POP into サイエンストーク「ピロリ菌を調べてみた。」を開催しました。

KEK 物質構造科学研究所(物構研)は、2022年6月からこの商業施設の別棟で特設展示「POP into サイエンス」を開催しています。今回のトークイベントは、2022年11月から翌年7月まで展示した「日本のピロリ菌とヨーロッパのピロリ菌」がテーマとなっています。

ピロリ菌とは、動物の胃のなかに棲む微生物で、胃がんを含む胃の不調の原因となると考えられています。ピロリ菌は世界中で見つかっていますが、東アジアでは胃がんが多くヨーロッパでは少ないことが疫学的に知られていました。

POP into サイエンストーク「ピロリ菌を調べてみた。」

サイエンストークは、物構研 構造生物学研究センターの千田 俊哉(せんだ としや)センター長と、サイエンスコミュニケーターの武田 真梨子(たけだ まりこ)さんが語り合うスタイルです。二人の背景には、ピロリ菌をデザインしたカラフルなバックパネルが置かれました。

物構研 構造生物学研究センター 千田 俊哉 センター長
サイエンスコミュニケーター 武田 真梨子さん

ピロリ菌を調べた話

前半では、研究センターの紹介や、加速器とタンパク質の研究の関係、ピロリ菌の何をどう調べて何が分かったのかについて、手持ちのパネルを使った解説がありました。

千田センター長らの研究グループが用いた実験手法は、「加速器」が生み出すX線を使った構造解析です。この加速器は、電子をほぼ光の速さまで加速して周回させることで強力なX線を生み出します。同じタンパク質をたくさん集めて析出させ、結晶にして、X線を当てることで、タンパク質の構造が分かります。

その結果、日本に胃がんが多い原因が、ピロリ菌が作るタンパク質CagA(キャグエー)の形の違いではないかという結論がでました。日本のピロリ菌のCagAはヒトのタンパク質にぴったりはまる形をしているので、くっつくと離れずヒトのタンパク質のはたらきを妨げてしまいます。一方、ヨーロッパのピロリ菌はヒトのタンパク質の形と合わず、すぐに離れてしまうのであまり悪さをしないというのです。

週末の商業施設に設置された会場のようす

この研究の裏には…

バックパネルを使って研究の説明をする千田俊哉センター長

後半では、そもそもどうしてピロリ菌を調べることになったのか、実験はどのように進んだのか、研究の裏話が披露されました。

実は、ピロリ菌が作るCagAは結晶構造解析がとても難しいタンパク質でした。憧れの研究者がCagAの構造が分からず困っていると聞いて、「僕たちならできます」と言ってしまった研究者 千田は、後には引けない思いで実験に取り組みます。

タンパク質の溶液を作り、結晶にして、溶液にちょっと浸してからX線を当てデータ解析をする研究チームが結成されました。丁寧に記録をとりながらその過程の一つひとつに工夫を凝らします。結果を見てはやり直しを何度も繰り返しました。数年かけて作った結晶は2000を超えたそうです。背景にはフランスの研究グループとの競争もありました。その結果、とうとううまくいく条件を見つけて構造を解き明かしたという話には、参加者から「プロジェクトXのようにおもしろかった」という感想が聞かれました。

参加した中学生からは、「ピロリ菌が作るタンパク質をどうやって集めるのか」という質問がありました。また、「ピロリ菌は胃以外に悪さをしないのか」という質問もありました。

会場となった商業施設の一角では

会場には、ピロリ菌が作るタンパク質CagAとヒトのタンパク質の拡大模型が展示されました。来場者は、日本とヨーロッパそれぞれのCagAとヒトのタンパク質との結合のようすを確かめる、ちょっと難しい立体パズルに挑戦していました。

また、サイエンスおみくじコーナーもありました。結晶構造解析実験で使われる蓋つきの小さな試験管の中におみくじが入っています。

タンパク質立体パズルに挑戦する参加者
蓋つきの試験管に入ったおみくじで運だめし

特設展示「POP into サイエンス」

特設展示 POP into サイエンス(2024年7月)

POP into サイエンスはKEK 物構研と農研機構「ミニ食と農の科学館」との共同展示です。KEKブースでは、6月中旬に展示替えを行い、現在「タンパク質の立体構造を見る方法」をテーマに展示を行っています。珍しい道具や顕微鏡も展示されていますので、トナリエつくばスクエア クレオ3階の特設展示会場にぜひ足をお運びください。すぐ隣には農研機構のブースがあり、併せて科学の世界をお楽しみいただけます。

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