J-PARC加速器、ビームパワーを大幅更新し省エネも実現

〜ニュートリノ研究の強力な原動力に~

J-PARCセンター
高エネルギー加速器研究機構
日本原子力研究開発機構

Background

茨城県東海村の大強度陽子加速器施設J-PARCでは、陽子をほぼ光の速さまで加速し、素粒子や原子核の未知の現象を捉えるさまざまな実験を行っています。実験の成否は、加速された陽子を実験施設に供給できる数に大きく依存するため、その指標である「ビームパワー」を増やす努力を続けてきました。

Achievements

「メインリング」と呼ばれる加速器では、2008年の運転開始以来、段階的にビームパワーをあげて来ました。大幅な増強を経て2023年12月25日、当初目標を超えるビームパワー760kWを達成しました。電磁石にたまったエネルギーを効率よく回収、再利用することで、これまでと同じ消費電力で約1.5倍のビームパワーを供給しており、大幅な省エネも実現しました。

Meaning

J-PARCでは、ニュートリノという素粒子の基本的な性質を調べるT2K実験を行っています。ノーベル賞が相次いで出るなど日本のニュートリノ研究は世界のトップレベルですが、今回のビームパワー向上でT2K実験が大きく飛躍し、それに続くハイパーカミオカンデ計画に向けて新しい成果を世界に先駆けて出すことが期待されます。

概要

茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)を、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同で建設し運営しています。素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広い分野での世界最先端の研究が行われています。運営組織をJ-PARCセンターと呼んでいます。

線形加速器(LINAC)と、3GeV(ギガ電子ボルト、GeVは加速された粒子の運動エネルギーの単位)まで加速できるRCS (Rapid-Cycling Synchrotron)と呼ばれる円形加速器、メインリングと呼ばれる円形加速器の3台で段階的に陽子を加速し、ニュートリノ実験施設などに陽子ビームを供給しています。

加速した陽子を標的にぶつけ、生成される中性子やK中間子、ニュートリノなどの粒子をさまざまな実験に使います。実験の感度は、生成される粒子の総数で決まります。その数は、標的に入射した陽子の数に比例します。より高い感度の実験を行うためには、より多くの陽子が必要です。そのためには、単位時間あたりにどれだけの陽子を加速できるかという指標「ビームパワー」が重要となります。単位はkW(キロワット)です。

メインリングは750kWを当初の目標性能として設計されたシンクロトロン方式の円形加速器です。これまでに数多くのビーム調整と改良を積み重ね、2019年にビームパワーが500kWに達しました。加速器の大幅な増強を実施して2022年度から加速調整運転を行い、2023年12月25日にこれまでの最高となる760kWのビームパワーを出すことに成功しました。

研究者からひとこと

J-PARCセンター 加速器ディビジョンの五十嵐進教授:機器の改造およびビーム調整にあたり、メンバーそれぞれが努力し、優れたチームワークを発揮して、ひとつの目標に到達しました。多数の人が関わった長年の目標でしたので安堵とともに感慨深く思います。今後研究を続けさらに高い目標に向かいます。

お問い合わせ先

高エネルギー加速器研究機構(KEK)広報室
Tel : 029-879-6047
e-mail : press@kek.jp

詳しくは  プレスリリース  をご参照ください。