【KEKのひと#70】 月・火星への有人宇宙旅行実現に向けて 岸本 祐二(きしもと・ゆうじ)さん

KEKのひと #70
国際宇宙ステーション(ISS)から回収された宇宙線量計と

今回は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究を行っている放射線科学センターの岸本祐二准教授に話を聞きました。

昨年4月に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催されたニコニコ超会議で、トークショーに出演されましたね。タイトルは「宇宙旅行に超行きたい!でも宇宙放射線は大丈夫?」でした。どのような内容か説明をお願いします。

地球で暮らす私たちの周りには、土壌や岩石等から放出される自然放射線が存在しますが、一方で宇宙では超新星爆発などを起源とする陽子や重粒子などの放射線が飛び交っていて、その放射線の様相は大きく異なります。放射線による被ばくの大きさの指標である線量率で比べると宇宙は地球の100倍以上の線量率があります。地磁場や地球の大気によって宇宙放射線は侵入が阻まれていることで、地表で暮らす私たちは守られていると言えます。

人が宇宙に行くときには、宇宙放射線による被ばくを管理することが重要な課題となっています。被ばく管理のためには線量を正しく測定することが求められます。そのため、各国の宇宙機関を始め、様々な大学、研究機関で宇宙放射線用の線量計の開発が進められています。私たちはガスにより放射線を検出するタイプの宇宙線量計の研究を行っています。トークショーでは、宇宙放射線とは何か、開発している宇宙線量計がどのようなものかをお話しさせていただきました。

なぜKEKが宇宙線量計の開発をしているのでしょう?

KEKは大型の加速器を何台も有する研究所なので、加速器から生じる放射線が外に出ないよう、管理することに力を入れています。私の所属する放射線科学センターでは、放射線管理やそれに関連する研究をミッションとしており、放射線と物質との相互作用に係る基礎データの研究や、放射線を検出するための手法・装置の研究などを行っています。加速器から生じる放射線はγ線や中性子などで、このように複数種の放射線が混在した場での線量計測手法の研究もテーマの一つです。その研究の延長として、線質は異なりますが様々な放射線の種類が混在した宇宙における線量計測手法の研究に至った経緯があります。

宇宙に元々興味があったのでしょうか?

私はテレビアニメ「銀河鉄道999」の世代です。主人公が宇宙を走る銀河鉄道に乗って途中下車しながら旅を続けるのですが、出てくる星々が一年中雨の星だったり一年中夏の星だったりと、それぞれがとても特徴的なのです。そのうちのひとつに地面が食べられる星があります。その味が良いことから、住民たちは地面を切り取って他の星に売っていきます。その結果、地面はどんどん削り取られ、ついには星自体が消滅してしまいます。いずれも今我々が見ることのできている宇宙には見られない星々ですが、広い宇宙の様々な天体が大きな多様性を持っていたら、と想像を膨らませているととてもワクワクした気持ちになります。

宇宙の天体にはX線を放射するものがたくさんあります。大学、大学院と物理学を専攻して星の性質を調べるためのX線の偏光を検出する装置の開発やそれを用いた天体の観測に携わってきました。例えば、この装置でブラックホールの近傍から飛来するX線を観測し理論モデルと比較してみると、モデルがどれだけ正しいか正しくないかがわかります。

それが現在の業務につながるのですね。

現在は「PS-TEPC(PositionSensitive Tissue-Equivalent Proportional Chamberの略)」という線量計の開発を行っています。日本語では「位置有感生体等価比例計数箱」と呼んでいて、宇宙放射線環境下での線量を計測する装置です。これは宇宙放射線環境下で線量を測定するのに適した生体等価物質(人の体を構成している元素組成比に近づけて作った物質)を使用し、宇宙放射線1発1発の飛跡をリアルタイムで取得できるユニークな線量計です。これにより、定義に忠実に沿った確度の高い線量計測が可能となります。2016年には「こうのとり」6号機に載せて国際宇宙ステーションへ打ち上げていただき、実際の宇宙放射線環境下での動作実証を行うことができました。

高校生・高専生を対象とした宿泊型学習プログラム「KEKウィンター・サイエンスキャンプ」で放射線コースの講師を務めていたのが印象に残っています。7年間担当したとのことですが、ここ数年は20歳以上が対象の素粒子・原子核スクール「サマーチャレンジ」に携わっていますね。どういうことをやるのですか?

自分がウィンター・サイエンスキャンプの講師を務めた時は、放射線が物質により遮蔽される度合いを調べる実験を参加してくれた高校生の皆さんにやっていただきました。物質があると放射線がなぜ減衰するのかを勉強し、どのような物質だと遮蔽する能力が高いのかを考えてもらいました。そしてメンバーにどのような物質の遮蔽効果が気になるかを考えてもらい、実際に遮蔽効果を調べる実験もしました。毎年、メンバーは色々な素材に興味を抱いてくれ、木材やガラスのような身近な物質に加え、面白いものだとスーパーで売っているお肉などの遮蔽効果を調べたこともありました。

サマーチャレンジは、大学生を対象により高度でより大がかりな内容の実験をやっていただききます。私の担当している班では地表における自然放射線について考えていき、測定によって、その線量を明らかにしていきます。場所によって線量やその成分に違いを生じますので、参加メンバーにどのような場所でどういう測定を行いたいかを考えてもらい、可能な範囲でフィールドでの測定を実施します。高度による線量の違いに興味を持った年は筑波山や白根山での測定を行ったり、自然放射線の中でも土壌起因の成分を切り分けたいと考えた年には参加者の皆さんで作製してもらった小型の線量計をドローンに搭載して放射線を計測したりしました。自分で作った検出器を飛翔体に載せて行う測定は、宇宙への打ち上げ実験に通じるものがあり、様々な開発要素を経験できてなかなか面白いです。

サマーチャレンジのテキストの自己紹介の資料に大きな魚を手にした写真がありました。釣りが趣味ですか?

いえ、あれは釣りではなく「魚突き」です。大学時代にサークルで活動していました。先がとがった銛(もり)を持ち、シュノーケルとウェットスーツを着用した上で身体が浮かんでこないよう10kg程度のおもりをつけて潜っていました。写真の魚はフエダイという魚です。フエダイは警戒心が強いので魚突きでは獲るのが難しいとされていて、この魚は個人的に最も自慢したい漁獲です。獲った魚はキャンプ地で調理して食べます。このフエダイは特に脂がのっていて美味しかったことを良く覚えています。

KEKのひと #70
釣果のフエダイと記念写真

すごくダイナミックですね。他にはどのような趣味をお持ちですか?

下の娘がまだ小さいため今は家族で近場に出かけることが多いですね。例えば、鹿島や北茨城の海へ釣りに行き、アジやサバを釣りました。筑波山に登ったりもしました。あとは近くに昆虫を探しに行ったりもしています。つくば市内にカブトムシがたくさん見つかる場所があって、活性の上がる夜に行くと、ピーク時には降ってくるかのように空中を飛び交っていますよ。普段は家の中で遊ぶことが多く、家の中で独特なルールの鬼ごっこをしたり、子供達はぬいぐるみが特に好きなので思いつきのストーリーでお人形遊びなどをやったりしています。

お子さんたちが大きくなってから本格的にアウトドア活動を再開するのが楽しみですね。研究も壮大なスケールです。公私ともに大きな夢に向かって頑張ってください。

(聞き手:総務課 海老澤 直美)

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