月面利用の拡大に向けた先行的な技術の研究開発開始!

~超小型・高機能な宇宙放射線環境の計測技術と
リアルタイム被ばく線量評価システムの構築~

国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学
国立大学法人東京大学
国立大学法人京都大学
国立大学法人神戸大学
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
国立大学法人総合研究大学院大学
国立研究開発法人理化学研究所
東京理科大学

名古屋大学宇宙地球環境研究所、東京大学、京都大学、神戸大学、高エネルギー加速器研究機構、総合研究大学院大学、理化学研究所、東京理科大学は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)が募集した「2021年度 月面での科学研究・技術実証ミッションにかかるフィジビリティスタディテーマ」に採択された「月面利用の拡大に向けた超小型・高機能な宇宙放射線環境の計測技術とリアルタイム被ばく線量評価システムの構築」の研究成果を発展させ、月面上・月軌道での将来の搭載機器開発を促進させるための先行的な技術の研究開発(フロントローディング)活動を開始します。

本研究グループは、今後も技術成熟度レベル(Technology Readiness Levels:TRL)を向上させることで月面探査に向けた搭載機会を獲得し、人類の深宇宙への進出に貢献する研究を加速します。

月をとりまく宇宙放射線と、超小型・高機能な宇宙放射線環境の計測技術とリアルタイム被ばく線量評価システムの月面での運用イメージ
本研究成果の月環境での運用イメージ

本研究のポイント

今後の人類の月・火星への探査において、月周回・月面の宇宙放射線環境計測は、被ばくや放射線影響の低減、放射線防護技術・遮蔽設計に直結する、極めて重要なキー技術です。特に、以下に示す2つの視点で、月における宇宙放射線環境計測の重要性があげられます。

視点1. 月面での有人活動における宇宙放射線計測・評価・予測の重要性

月面・月周回において有人活動を行う際に、宇宙放射線(太陽放射線、銀河宇宙線、磁気圏電子)の様子を定常的に把握し、評価、さらに予測を行っていくことは、今後の持続的な宇宙開発にとって必須となります。

視点2. 月面多点での宇宙放射線計測を実現するための必要技術

月周回・月面探査機搭載のためには省電力かつ小型の計測装置開発が必須となります。また、この省電力・小型化の技術は、将来、可搬型(モバイル)、さらに月面ローバー搭載可能型の放射線計測装置への応用や、月面多点での無人放射線観測モニター(月面百葉箱)装置へと展開し、月面多点において、リアルタイムでの宇宙環境計測を行う基盤となります。

これらの点をふまえて、本研究グループでは、省電力・小型という特徴を有した月放射線計測装置として、3機器LEON, PS-TEPC, Lunar-RICheSの装置開発に取り組みます。

帯電に関する計測技術

A. 月環境用電子計測器 LEON (Lunar-environment ElectrON sensor)

LEONは、固体物質の帯電を引き起こすキロ電子ボルト(keV)からメガ電子ボルト(MeV)のエネルギー帯の電子について、その入射エネルギーと到来方向を計測することで、月面環境の帯電・電位推定を行い、多様な環境下での現象およびリスク評価を実施する電子計測機器です。月面観測に向け、これまで個別部品で構成していた信号処理回路部分をASIC化することで観測器の小型化を図るとともに、検出器の新規開発により観測エネルギーレンジの拡張を目指します。

□被ばくに関する計測技術

B. 位置有感生体等価比例計数箱 PS-TEPC (Position Sensitive Tissue Equivalent Proportional Chamber)

PS-TEPCは、宇宙放射線影響評価に必要な陽子及び重粒子のLET(線エネルギー付与)と吸収線量を測定するための宇宙環境用線量計です。生体組織等価ガスを封入した検出部に荷電粒子が与えたエネルギーとその飛跡をμ-PICと呼ばれる電荷収集デバイスにより同時測定することで、1粒子毎のLETを取得でき、線量当量の定義に忠実な線量計測が可能となります。また、生体組織等価物質を使用していることにより、線量換算における誤差を小さくすることができます。検出器からの信号をASICにより処理することで装置の大幅な小型・軽量・省電力を図り、月周回に向けた線量計を開発します。

C. 月探査機搭載用チェレンコフ検出器 Lunar-RICheS (Ring Imaging Cherenkov Spectrometer)

Lunar-RICheSは、宇宙放射線影響評価のための線質・線量評価に欠かせない、高エネルギー粒子線(太陽フレアに起因する太陽高エネルギー粒子や太陽系外から飛来する銀河宇宙線)のエネルギーを計測する装置です。積層センサとリング撮像型チェレンコフ検出器を組み合わせることにより、地磁気圏外での15 MeVから2ギガ電子ボルト(GeV)の広い範囲で粒子のエネルギースペクトルを、世界で初めて計測します。ASIC を用いることで、人が簡単に持ち運べるサイズに小型化することを目指します。月面や月近傍のあらゆるところに設置することにより、宇宙放射線被ばく管理や宇宙天気予報など、幅広い分野での活用が期待されます。

詳しくは  プレスリリース  をご参照ください。

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