サマーチャレンジ20回開催を記念して、特別イベント開催

小林誠 特別栄誉教授が登壇

KEKでは基礎科学を担う若手の育成を目的に大学3年生および高専生を主な対象として、大学生・高専生のための素粒子・原子核スクール「サマーチャレンジ」(以下、サマチャレ)をつくばキャンパスで開催しています。サマチャレは、研究最前線で活躍する研究者による講義や施設見学のほか、 素粒子・原子核のさまざまな実習プログラムを通じて参加者たちが研究者から直接指導を受けることで、研究の一連の流れを体験するイベントです。また、科学者・研究者を志す仲間との出会いや今後の進路を考える機会を提供しています。

開催20回目を迎える今年のスクールは、8月17日から26日まで行われ、中日にあたる22日には節目の年を記念して、特別イベントが小林ホールで開催されました。文科省研究振興局基礎・基盤研究課 素粒子・原子核研究推進室の邉田憲室長、京都大学大学院理学研究科教授で高エネルギー物理学者研究者会議(JAHEP)委員長を務める中家剛氏、および同大学教授で原子核物理委員会委員長を務める関口仁子氏(オンライン参加)を来賓として迎え、今年の参加者や組織委員会、スクール立ち上げ当時の関係者、卒業生など約90人が参加しました。

特別講義を行う小林 KEK特別栄誉教授

記念イベントでは初めに特別講義として、小林誠・KEK特別栄誉教授が講演を行い、量子力学から素粒子物理学の標準模型に至るまでの歴史的発展、特に「教科書には書かれない」思考過程や日本人研究者の貢献について講演し、質疑応答が行われました。

講義後の記念セッションでは初めに、KEKの浅井祥仁機構長が挨拶に立ち、20年前と比べて、「物理学はヒッグス粒子発見や重力波観測で大きく変わった」と指摘。「私が学生の頃は『重力波をやったら、人生終わるぞ』と言われたものです」と、笑いながら自らの時代を振り返り、「サマチャレは『スクール』ではなく『チャレンジ』。失敗しながら考える習慣を身につけてほしい」と大学生たちにメッセージを送りました。

左から浅井KEK機構長、邉田文科省素粒子・原子核研究推進室長、中家JAHEP委員長

来賓の挨拶では、邉田室長がAIや量子技術の進展する変化の時代において、新たな価値を創出する原動力は「人材」であると強調。「文科省として、挑戦的な研究に取り組める環境づくりを重要な施策と位置づけ、研究人材育成を支援していきたい」と語りました。中家委員長は、「物理学を探究すると、わからないことが増えていく」と述べながら、「20年後には量子重力や暗黒物質など、今まだ解明されていない謎が解けている可能性はゼロではない」とこれからの物理学発展に期待を述べました。オンラインで参加した関口委員長からは、「原子核物理コミュニティとして、サマチャレの事業は最重要と位置づけている」と全面的に協力している現状の説明があり、優秀な研究者を輩出する貴重なイベントとしてサマチャレの発展・継続の重要性を語りました。

続いて、過去のサマチャレに関わった関係者や卒業生たちが登壇しました。
立ち上げに尽力した初代校長の齊藤直人・素粒子原子核研究所(素核研)所長は、「きっかけは髙﨑文彦先生(素粒子原子核研究所 元所長)からの一言だった」と回想。「私自身のチャレンジにしたい」という気持ちも込めて、「サマーチャレンジ」という名称を自身で決めたことを明かしました。

サマチャレ初代校長を務めた齊藤 素核研所長

卒業生として最初に登壇した、第1回修了生の菊田遥平氏は、現職であるAWS JapanでのAIに関する高度な技術課題と向き合う職務を通じて、「自分自身の理解はAIに依存できない。苦しくて楽しい『理解の過程』が人生の指針になる」というメッセージを大学生たちに送りました。

第2回修了生で、東京女子大学 現代教養学部 准教授の富谷昭夫氏は、ワイヤーチェンバー製作の実習や講師への質問を通じて、「サマチャレがキャリアのターニングポイントになった」と、後の専門(格子QCD)につながるきっかけを得た経験を語りました。

第1回修了生の菊田氏(左上)、第2回修了生の富谷氏(右上)、第3回修了生の島袋氏(左下)、第2回修了生の神田氏(右下)

同じく第2回修了生で、J-PARCでパルスミュオンビームを用いたさまざまな実験を行う物質構造科学研究所助教の神田聡太郎氏は、研究の楽しさともに演習の難しさを指摘。「だいたいはうまくいかないものですが、そんな時こそ、研究者の腕の見せ所です」と語り、研究に向き合う姿勢には柔軟さが大切だと大学生たちにアドバイスしました。

第3回のサマチャレに参加した島袋隼人氏は、現在の中国・雲南大学でのポジションに至る自らの海外研究キャリアを語学力などに触れて紹介。困難な研究分野にこそ、「むしろ興味を持っていただきたい」と、挑戦的な研究テーマへの関心を促しました。

第3回から第6回の校長を務めた春山Kavli IPMU元副機構長

最後に、第3回から4年にわたって校長を務めた東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)元副機構長の春山富義氏が登壇しました。当時、素核研教授(後に所長)だった春山氏は、メディア露出によりサマチャレの社会的存在が確立した経緯や、卒業生発案のイベントを支援したエピソードなどを紹介。「サマチャレの卒業生は1,300〜1,500人の規模になっていて、例えば、第4回の参加者80人のうち10人以上が大学の准教授などに就任している」と、アカデミアでの高い就職率を示しながらサマチャレの成果と意義を強調し、これからの継続的な支援を呼びかけました。

記念セッションは、OB・OG会代表の角谷爽氏が会の活動内容を紹介し、同会への参加を呼びかけた後、参加者一同で記念撮影を行い、閉幕しました。その後、来賓は、今年の演習の様子を見学。それぞれの演習グループの大学生たちから実験内容の説明を受け、質問や感想など交えながら、サマチャレの実際の雰囲気を和やかに味わい、散会となりました。

演習グループの実験を見学しながら、学生たちと質疑を交わす関係者たち

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