
KEKは、欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を用いた国際共同4実験の一つ「ATLAS実験」に日本グループの中核機関として参画し研究を進める一方、高輝度LHC(HL-LHC)計画に向けた次世代検出器の研究開発を国内企業と連携しながら進めてきました。このたび、KEKと長年連携してきた浜松ホトニクス株式会社が、CERNのATLAS・CMS両コラボレーションよりインダストリアル・アワードを受賞しました。同社の高性能センサー技術の開発および製造への貢献が高く評価されたものです。
KEKはATLAS測定器の内部飛跡検出器、超伝導ソレノイド電磁石、ミューオントリガー検出器、ミューオン検出器用電子回路の開発・建設、実験運転、データ解析において重要な役割を担い、国内の大学・研究機関と協力して計画を推進してきました。現在は、HL-LHC計画に向け、これまでにない厳しい要求性能を満たす次世代検出器の建設を進めています。
HL-LHCでは、25ナノ秒ごとに平均140回もの陽子・陽子衝突を発生させるという超高密度の衝突実験を実施します。これらの衝突点から生み出される膨大な荷電粒子の飛跡を、一つ一つ分解し精密に測定することではじめて、ヒッグス粒子の性質の解明に必要な「視力」が測定器に備わります。特に、衝突点のすぐ近くに設置される検出器には、50マイクロメートルという極めて細かな間隔で粒子を検出できる半導体ピクセルセンサーが不可欠で、厳しい放射線にさらされても性能があまり劣化しないことが求められます。また、ピクセルセンサーと読み出し電子回路チップ(ASIC)を接続する「バンプ接合」には微細なズレも許されず、この工程の品質が装置全体の性能と信頼性を大きく左右します。

一方、衝突点から少し離れて広い検出領域をカバーするためには、大面積のシリコンストリップセンサーが必要で、多数の高品質なセンサーを安定して製造することが求められます。これらの先端シリコンセンサー技術は、ATLAS実験だけでなく、LHCの別の実験「CMS実験」にも活用されています。

KEKはこうした先端検出器技術の研究開発を、浜松ホトニクス株式会社と長年連携して進めてきました。その中でも、高品質なシリコンセンサーは重要な基盤技術であり、同社はこの分野において大きな役割を担ってきました。高い放射線耐性と大規模生産を実現し、例えばATLAS測定器の現在の飛跡検出器には総面積60平方メートル超のシリコンセンサーが実装され、HL-LHCに向けては180平方メートル近いものが準備されているところです。これらのセンサーの大多数が浜松ホトニクス株式会社製です。
さらに将来に向けた次世代検出デバイスの研究開発も進めています。例えば、授賞理由にも挙げられたLGAD(Low Gain Avalanche Detector)は、粒子の通過した時刻をきわめて正確に(数十ピコ秒の精度で)測定できるものです。素粒子物理学実験の発展にはこのような挑戦的な研究開発が不可欠です。挑戦を続けることで、人類の知のフロンティアを開拓するための技術が磨かれていきます。ここでも、日本の技術力の高さを世界に示しています。
今回の受賞は、KEKをはじめとする研究機関・大学と日本の産業界が連携して推進してきた最先端検出器開発と製造が、国際連携事業を支える重要な技術基盤として国際的に認められていることの証左といえます。また、長年の最先端研究開発を通じて築かれた、高度な技術や厳格な品質管理、大規模な製造を実現する産学の協力体制は、今後の大型国際連携事業においても重要なモデルケースとなるものです。
KEKは今後も産業界との連携を通じて、加速器科学および素粒子物理学研究を支える最先端技術の研究開発を推進していきます。

