SSP2025一般向け科学講演会「遷都1300年の古都で、最先端科学に思いを馳せる」を開催しました

KEKは2025年9月28日、名古屋大学素粒子宇宙起源研究所との共催で、奈良市にある奈良春日野国際フォーラム甍で一般向け講演会「1300年の都から宇宙130億年の時を想う」を開催しました。 

冒頭、KEK物質構造科学研究所の下村浩一郎特別教授があいさつに立ち、「奈良に遷都して1300年が過ぎましたが、宇宙の起源は138億年前。1千万倍という時を経て、今があります」と、壮大な宇宙の不思議に挑んできた人類と科学の素晴らしさをたたえました。 

下村浩一郎・KEK物質構造科学研究所 特別教授

最初に登壇したのは、東京大学工学系研究科物理工学専攻教授、および理化学研究所 時空間エンジニアリング研究チーム チームディレクターの香取秀俊氏。光格子時計の発明者として知られる理論物理学者です。香取教授は「時計の精度は、振り子の精度である」として、光格子時計を考案し、地球が誕生してから1秒と違わない「18桁(10-18秒)まで測れる時計」を2014年に実現しました。その後、アインシュタインの相対性理論、「重力の弱いところでは、時間は早く進む」ことを証明します。 

香取教授は「18桁の時計を作ると、1センチメートルの高低差が見えるようになってきました。この時計を使うことで、地震、火山をはじめ、さまざまな災害対策での応用が進むでしょう」と語ります。ところが、現在の国際規格で保証されている秒の正確さは、「16桁」まで。この規格の再定義に向けて、香取教授は光格子時計の研究成果を国際度量衡総会に報告して再定義手段の候補に選ばれ、2030年に開かれる総会での採択が有力視されています。

香取秀俊・東京大学工学系研究科 物理工学専攻教授

 「今の世の中では、時計の針が合っていないと気持ちが悪いですよね。でも、山の上にある時計は早く、麓はゆっくり、そんな二つの時計があって、相対論効果があると感じる時代がやってきます」という香取教授の講話に、参加者は光格子時計でしか見えない新しい世界を思い描きました。 

続けて、東京大学特別教授およびカリフォルニア工科大学フレッド・カブリ冠教授の大栗博司氏は、「量子と重力の統一」をテーマに話をしました。 

今年はヴェルナー・ハイゼンベルクが量子力学の最初の体系を発表して100年の節目の年。大栗特別教授はそれ以前の物理学数百年の歩みを「より小さい世界を見ることで、より深い、基本的な法則を発見してきた歴史」と位置付けます。一方で、量子力学は粒子の不思議な振る舞いを考察する新たな研究分野として、「これまでの古典物理学との統合は非常に難しい」と語ります。大栗特別教授は、古典物理学と量子力学を統一する理論を「基本法則探求のラスボス」と呼びます。 

大栗博司・東京大学 特別教授

「ラスボス」とは、コンピューターゲームなどで、物語の最後に登場する最強の敵。大栗特別教授は、「このラスボスを使って宇宙の理論を解明するのに奈良遷都からと同じくらいの千数百年、実験的に証明するのにさらに千年かかるでしょう。科学的知識は、過去何世紀にもわたって、人類のいろいろな研究者の英知によって築かれてきた、人類共通の財産です。僕らが今やっている研究というものは、こうした科学の大伽藍に新しい真理を積み重ねていく作業なのです」と、未来の科学者への期待として、会場の若者へメッセージを送りました。 

最後に、KEK素粒子原子核研究所の齊藤直人所長が登壇しました。法隆寺の謎といわれる中門の柱の数について触れながら、そこから見える平城京のおもしろさを紹介。「宇宙にも、たくさん謎がある」と、138億年を一年に縮めた、カール・セーガンの宇宙カレンダーに沿って、素粒子物理学の歴史を解説しました。 

齊藤所長は「一年の最後の12分間に存在するホモサピエンスが、このカレンダーに記載されている知識を得られたことに驚きを感じます。これがサイエンスの力です」と、科学という学問の成果を示しながら、KEKで行われているBelle II実験や、 J-PARCを舞台にしたT2K実験でやミューオンg-2/EDM実験など、加速器を使った最先端の取り組みを紹介しました。 

齊藤直人・KEK素粒子原子核研究所 所長

「私たちの研究には、いたるところに「対称性」という言葉が出てきます。対称性があるとは、立場の違いがあっても同等の権利を持っているということ。私たちの治験を多くの人と共有して一緒に仕事をしたい。その意味で、物理というのは、先人たちの業績の上に積み重ねられた、時空を超えたコラボレーションです」と、齊藤所長はさまざまな研究とその成果が社会に役立つものでありたいと語りました。 

今回の科学講演会は、9月23日から28日まで開催された「第9回 素粒子物理学における対称性に関する国際シンポジウム」の一環として、遷都1300年という時代の節目に立って、人類が科学の理解と進歩とともにあることを強く印象づける企画となりました。 

動画視聴リンク
SSP2025一般向け科学講演会「1300年の都から宇宙130億年の時を想う」の各講演の動画をご覧いただけます。

・講演1:「どこまで正確な時計を作れるか」 香取秀俊博士
・講演2:「量子と重力の統一 ~ 基本法則探究のラスボス」 大栗博司博士
・講演3:「加速器で時を超える – 宇宙と物質の起源を探る旅」 齊藤直人博士
パネルディスカッション 香取秀俊氏、大栗博司氏、齊藤直人氏

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