「加速器を作っちゃおう!」 全国の高専生が交流会――未来の技術者たちを研究所や企業が支援 

「加速器の知識は、必ず将来の進路に役立つ」――。 

そう確信しながら、群馬高等工業専門学校3年生の宮島智宏さんは理科部に所属して加速器を製作しています。「夢だけは大きくて、でも、モチベーションが続きにくいタイプなんです。だからこの集まりに来ると、危機感を煽ってくれるというか、いい意味で自分を鼓舞してくれる刺激があります」と少し照れながら語ります。

左から、沖縄高専の新城さん、群馬高専の中村さん・吉原さん・宮島さん、小山高専の吉澤さん 

宮島さんが話す「この集まり」とは、2⽉27日から28日にかけて理化学研究所(埼⽟県和光市)で開催された「⾼専加速器 現地交流会」のことです。主催は、高等専門学校(高専)で加速器を制作する取り組み「AxeLatoon(アクセラトゥーン)プロジェクト」。全国の⾼専に所属する学⽣・教員を対象に、2020年にKEKと理化学研究所が共同で立ち上げ、SOKENDAI社会連携事業、KEK未来基金、KEK加速器科学国際育成事業(IINAS-NX)などの支援を受けています。交流会はプロジェクトに参加する高専生を中心に毎年開催され、今年は8つの高専から現役生・OBなど27人が参加しました。 

「作りっぱなし」ではなく、後輩たちに「バトンタッチする」 

プロジェクトの活動として、学生たちは卓上の加速器を設計・製作しています。交流会はその成果を発表する場でもあります。宮島さんと同じ3年生の吉原侑さんは「加速器を作るにあたって、自分たちのやっているのは全く違う工程を見るのは勉強になるし、どう試行錯誤して乗り越えてきたかを聞くのはとても楽しいです」と言います。

事例紹介や関連企業紹介などプレゼンテーションでは活発な質疑応答が行われた 

吉原さんが言うように、ひと言で「加速器」といっても種類は様々、関わる高専生の専門分野も様々です。小山高専を例に挙げると、参加した5年生二人はそれぞれ機械工学科と電気電子総動工学科が専攻で、小型サイクロトロン加速器の稼働に取り組んでいます。1年目に設計、 2年目に周辺機器を準備、3年目から少しずつ実験を始めて、今年度見事に運転にいたりました。そんな先輩たちに「負けじ!」と、2年生と3年生はあえて異なる線形加速器を設計中、1年生はこれまた異なる加速器にも応用可能なバンデグラフ起電機の製作に挑んでいます。

左から小山高専生が取り組むサイクロトロン加速器、設計中の線形加速器3D、右がバンデグラフ起電機

プロジェクト発足時から小山高専の歩みを見守る加速器研究施設の大谷将士准教授は「学生たちが単に『作る』ことを目標にするのではなく、次の世代に『バトンタッチする』ことを前提に持続性や継承まで見据えた視点で活動していることに本当に驚かされました」と語ります。自らの研究活動を振り返って「その時々の研究目標に特化した装置を製作し、いわば『作りっぱなし』に近い形になっていたかもしれない」と考えさせられたと言います。 

小山高専はこうした点を評価されて、今年の交流会で新たに設けられたプレコンテスト「加速器 DIY いいねアワード」で、呉高専とともに「いいね大賞」に選ばれました。 

夜の交流会では卓上加速器の製作解説も。写真右下は長野高専OBの岡本さんと小山高専の小暮さん

⾼専×アカデミア×企業=加速器技術を次世代へ

北は秋田、南は沖縄から参加した高専生たちにとって、この機会は加速器施設の現場を訪れる絶好のチャンスでもありました。沖縄高専4年生の新城樹貴さんは後輩3人と参加しました。前泊してJ-PARCのハドロン実験施設やニュートリノ実験施設を見学したことに触れ、「この巨大な施設で、量子というめっちゃくちゃ小さい粒子を扱うというギャップに加速器の世界のおもしろさを感じました」と話します。「沖縄の郷里はめっちゃ田舎なので、星空がきれいです。あの星空の起源をたどるなんて、僕の想像を遥かに超えていて、でもワクワクしました」と加速器を間近に見た感想を語りました。交流会では、会場となった理研の加速器施設の見学も行いました。 

加速器関連企業の代表や人事担当者との質疑応答の機会を設けているのも、この交流会ならではの取り組みです。今回参加した企業は4社で、いずれも日本の加速器の現場を支える技術者が活躍しています。KEKからも、加速器研究施設の濁川和幸主任技師が現場で求められる技術者像を語り、また教育加速器(KETA)を用いた加速器技術セミナーなどについて説明をしました。「語学力はどのくらい必要ですか」「インターンシップはありますか」など学生たちからは多くの質問が寄せられ、各社とも熱のこもった答弁で学生たちの真剣なまなざしに応えました。 

スローガンは「加速器を知らない人ゼロ」 

年に一度の交流会で出会い、その後も連絡を取り合いながら親睦を深めて、また新たな出会いを迎え仲間の輪を広げていく同胞の集いです。同じ年頃の高校生とは共有できない特殊な環境で、高度な授業や多くの課題を抱えての学業のかたわら、彼・彼女たちが取り組むプロジェクトはあくまで部活動です。部員集めにも苦労が絶えません。しかも、教員や研究者など活動スタッフからの指導は「結構、厳しい」(大谷准教授)そうです。

2日目には理研の加速器施設を見学。活動を評するプレコンテストも開かれた

それでも活動を続ける原動力は、どこから来るものなのでしょう。現在信州大学の学生で長野高専OBの岡本恵太さんは、こう言います。 

「みんなに共通しているのは、好奇心ですね。『あれをやりたい』『これ、面白そうじゃん』と集まって、同じ方向に行く人もいれば、次第にそれぞれの道を進んで行く人もいます。でも広がった輪はちゃんとあって、その根底には好奇心旺盛なところがあると思いますね。」 

好奇心の的である加速器を共通項に集う若き研究者・技術者の卵たちとともに、プロジェクトは「加速器を知らない人ゼロ」を目指します。交流会は来年も同時期に実施予定です。

大谷将士・加速器研究施設准教授

 今回の交流会には8校の高専に参加いただきましたが、全国には50校以上の高専があり、最終目標である「全国高専加速器コンテスト」の実現には、まだ道半ばです。さらなる全国展開に向けて、今回キャリア紹介をご担当いただいた加速器関連企業の皆様や研究機関の方々、そして資金面でご支援いただいた各種学会のお力添えが、ますます重要になると考えています。今後も、産学連携・高専間連携をより一層強化しながら、加速器という魅力的なテーマに挑戦する高専生の輪を全国へ広げていきたいと思っています。そして、高専発の加速器人材育成モデルを確立し、日本の加速器分野の将来を担う人材の育成につなげていくことを目標に、活動を発展させていきたいと考えています。 

加速器 DIY いいねアワード 表彰 

いいね大賞 

小山高専5年生 小暮聡さん・福田蒼樹さん 

「大学で量子物理を学べるところに行くつもりです。日本人でノーベル賞を取っている方々の多くは量子物理分野。だから、量子物理をやっていくなら、最終目標はそこにしたいと思っています」(小暮さん)

いいね大賞 

呉高専5年生 北川晏さん・林奏直さん・倉田真緒さん 

「興味の赴くままに2年間活動をしていましたが、今回初めての発表でこのような賞をいただけて光栄です。今後も各人自分たちの好きなことにどんどんチャレンジして形になるような活動をしていきます」(倉田さん) 

スパークルーキー賞 

小山高専1年生 菅 珠碧さん・吉澤衣知花さん 「空港の手荷物検査で加速器技術が使われているのに興味を持って入部しました。パンデグラフを選んだのは「子供たちが興味を示すのでは」と思ったからです」(吉澤さん) 

電磁石しゃべくり賞 
群馬高専3年生 
中村蓮太郎さん・ 吉原侑さん・宮島智宏さん
加速器バトン賞 
長野高専3年生 
山田 楓生さん ・OB岡本恵太さん
レールガンマイスター賞 
沖縄高専 3年生 武恵礼奈さん・ 宮城 舞子さん・松井咲希さん
 4年生新城樹貴さん
リニアチャレンジ賞 
小山高専2年生 
吉村奏大さん・ 小川留奈さん 
*プロジェクトで製作している卓上加速器について 

本体(電磁石と真空チェンバ)は手のひらサイズ(~200mm×200mm)。陽子を1keV程度まで加速できる。小山高専では加速器の真空チェンバは設計後に外部業者に加工を依頼し、電磁石は既製品だが、今後は全ての製作を目指している。呉高専では高専の技術スタッフの手を借りて高専内の工場で加工している。群馬高専ではコイルを巻いて電磁石の製作に挑戦している。 

関連する記事・ページ