「グローバル・フィジクス・フォトウォーク 2025」受賞作品が決定

※この記事は、インタラクションズ・コラボレーションが発行したプレスリリースを日本語仮訳したものです。原文はこちら

世界の素粒子物理学研究所の広報ネットワークであるインタラクション・コラボレーションは、「グローバル・フィジクス・フォトウォーク2025」の受賞作品を公表しました。これらの作品は、絶対零度よりわずか数千分の一度高い温度でダークマターを探索する検出器から、深海で激しい天体物理現象を観測するニュートリノ望遠鏡まで、素粒子物理学という最前線の領域を可視化し、宇宙の解明に挑む人類の営みが持つ美学と精密さを捉えた記録へと変えています。

米国、欧州、アジアの100名を超えるアマチュアおよびプロの写真家から寄せられた数百点の応募作品から選ばれた本コンテストは、世界各地で行われている最先端科学の現場における「人」と「技術」の舞台裏を広く紹介するものです。参加した16の科学研究所は、宇宙と物質の根源的性質を探求し、宇宙の起源やその構成要素に関する答えを求め、ダークマターの謎の解明に取り組むと同時に、社会に貢献する先駆的な技術開発を推進しています。

2025年に各機関で開催されたローカル・コンペティションを経て、選出された上位3作品、計48作品 が国際審査に進みました。国際審査員団には、ドミトリ・デニソフ氏(ブルックヘブン国立研究所 高エネルギー物理学担当)、タベア・ラウシャー氏(審査時:EMBL、現:マックス・デルブリュック分子医学センター)、ウィル・ワラシラ氏(ニューヨーク・タイムズ紙 写真家)といった、科学と芸術の双方に精通した専門家が名を連ねました。さらに、2026年1月13日から27日にかけて実施されたオンライン一般投票による上位3作品も選出されています。

審査員選考による第1位には、INFNフラスカティ国立研究所(イタリア)の極低温検出器研究所の研究者を捉えた、マルコ・ドンギア氏の作品が選ばれました。審査員のラウシャー氏は「この作品は、明確な視覚的ストーリーテリングと、視線をシーン全体へと導き発見の瞬間を強調する巧みな光の演出において際立っていました。巨大なクライオスタット(冷却装置)のスケール感と研究者の対比が、科学技術の壮大さとそこにある人間存在を中心に据える構成となっており、その照明効果は、科学研究における『激しさ』と『孤独』の双方を内包する、映画的な静謐さを醸し出しています」と講評しています。

受賞したドンギア氏は、「受賞を知り、言葉を失いました。被写体であるクライオスタットは絶対零度をわずかに上回る極低温環境にありますが、この知らせは、いかなる極低温技術をもってしても冷却できないほどの熱い感情を私にもたらしました」とコメントしました。デニソフ氏は、審査員がドンギア氏の作品を選んだ理由として「実験装置と開発者の深い関係性」を表現している点を挙げました。一方で、第2位および第3位の作品については、実験装置の内部構造への深い洞察と、印象的な色彩表現力が選出理由であったと述べています。

受賞作品以外にも、多くの応募作品が審査員に強い印象を与えました。

「グローバル・フィジクス・フォトウォーク2025の審査員を務め、応募作品の幅広さと感受性に心を打たれました」とワラシラ氏は述べました。「これらの写真は抽象と現実の体験の間を行き来しながら、科学の空間の中に形やリズム、静かな美しさを見いだすと同時に、この仕事を可能にしている人々の労働と好奇心を前面に押し出しています。地理的にも組織的にも多様な背景を持つこれらの作品は、写真が私たちの歩みを少し緩め、複雑なシステムを理解可能なものにし、そして科学が単なる技術ではなく、深く人間的な営みであることを思い出させてくれることを示しています。」

受賞作品およびその他の応募作品は、2月12日から14日まで米国アリゾナ州フェニックスで開催される米国科学振興協会(AAAS)年次総会で展示されます。Interactions Collaborationおよびフォトウォーク展示はブース113でご覧いただけます。

グローバル・フィジックス・フォトウォークは、素粒子物理学機関の国際ネットワークであるInteractions Collaborationが主催しています。今回で5回目の国際フォトウォーク開催となります。過去には2010年、2012年、2015年、2018年に実施されました。

1位 (審査員)

写真家:マルコ・ドンギア さん
タイトル:Research at COLD(COLDでの研究)

Research at COLD(COLDでの研究)

作品概要
INFNフラスカーティ国立研究所の極低温検出器研究所(CryOgenic Laboratory for Detectors:COLD)で研究に取り組む若手研究者。手前に見える研究所のクライオスタットは、絶対零度よりわずか数千分の一度高い −273.14℃まで到達することができ、私たちの銀河に存在するダークマターが生み出している可能性のある、極めて微弱で希少な信号を検出することを可能にしている。

1位 (一般投票)

写真家:© Yannig Van De Wouwer / GANIL / CNRS 
タイトル:The Tunnel(トンネル)

The Tunnel(トンネル)

作品概要
SPIRAL2リニア加速器の奥には、数多くのケーブルや配管が美しく整然と並ぶ通路がある。このエリアは他の多くの場所よりも照明条件が良く、小さな絞りで撮影することで、光源が心地よい星形に浮かび上がった。写真は、フランス・カーンにある大型重イオン国立加速器施設(GANIL、CNRS/CEA)で撮影された。

2位 (審査員) 
写真家:マッテオ・モンザーリ
タイトル:AGATA–PRISMA装置 ― 原子核物理実験のためのセットアップ

AGATA–PRISMA装置 ― 原子核物理実験のためのセットアップ

作品概要
AGATA(Advanced GAmma Tracking Array)ガンマ線検出器と、PRISMA磁気スペクトロメーターを組み合わせた実験装置。これらの装置は、低・中エネルギー領域の原子核物理実験に用いられており、INFNレニャーロ国立研究所のTANDEM-ALPI-PIAVE加速器複合施設内の実験ホールに設置されている。

2位(一般投票
写真家:© Yannig Van De Wouwer / GANIL / CNRS
タイトル:Vacuum(真空)

Vacuum(真空)

作品概要
加速器科学において重要な要素のひとつは、膨大なデータの中からパターンを見いだすことだ。この写真では、その概念を表現しようと試みた。数多くの配管やダクトが入り組む複雑な設備の中から、興味深いパターンを探したのである。
ここに写っているものが何かわかるだろうか? これは真空パイプの外装部分をクローズアップしたものだ。写真は、フランス・カーンにある大型重イオン国立加速器施設(GANIL、CNRS/CEA)で撮影された。

3位 (審査員) 
写真家:© Hugo Pardinilla / CPPM / CNRS
タイトル:Eye of a Neutrino Telescope(ニュートリノ望遠鏡の眼)

Eye of a Neutrino Telescope(ニュートリノ望遠鏡の眼)

作品概要
KM3NeT/ORCA実験(Cubic Kilometer Neutrino Telescope)の光電子増倍管をクローズアップした写真。KM3NeTは、フランス・プロヴァンス沖の地中海、水深2,500メートルの海底に現在設置が進められているニュートリノ望遠鏡である。
この実験で用いられる各水中光学モジュール(密閉されたガラス球)には、31個の光電子増倍管が搭載されており、深海の暗闇の中で生じる極めて微弱な光の閃光を捉えることができる。各ガラス球は同様のモジュールと接続され、KM3NeT実験の検出ラインを構成する。
これらの検出ラインは海底に垂直に配置され、数十メートル間隔で設置されることで、数百万立方メートルにも及ぶ広大な海水を計測領域として取り込み、巨大なニュートリノ検出器を形成している。ニュートリノが周囲の物質と相互作用すると荷電粒子が生成され、その軌跡に沿って円錐状の光(チェレンコフ放射)が生じる。この光を、KM3NeTの検出ラインに並ぶセンサーが捉えるのである。

3位 (一般投票)
写真家:マッテオ・モンザーリ
タイトル:AGATA–PRISMA装置 ― 原子核物理実験のためのセットアップ

AGATA–PRISMA装置 ― 原子核物理実験のためのセットアップ

作品概要
AGATA(Advanced GAmma Tracking Array)ガンマ線検出器と、PRISMA磁気スペクトロメーターを組み合わせた実験装置。これらの装置は、低・中エネルギー領域の原子核物理実験に用いられており、INFNレニャーロ国立研究所のTANDEM-ALPI-PIAVE加速器複合施設内の実験ホールに設置されている。

2025年グローバル・フィジックス・フォトウォーク参加研究所

● 欧州合同原子核研究機関(CERN)〔スイス/フランス〕
● フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)〔米国〕
● 高エネルギー加速器研究機構(KEK)〔日本〕
 ○ 高エネルギー加速器研究機構(KEK)
 ○ 大強度陽子加速器施設(J-PARC)
● フランス国立科学研究センター 原子核・素粒子部門(CNRS Nucléaire & Particules)〔フランス〕
 ○ アヌシー素粒子物理学研究所(LAPP)
 ○ ユベール・キュリアン複合研究所(IPHC)
 ○ IN2P3計算センター(CC-IN2P3)
 ○ 大型重イオン国立加速器施設(GANIL)
 ○ 亜原子物理学・宇宙論研究所(LPSC)
 ○ マルセイユ素粒子物理学センター(CPPM)
● イタリア国立原子核物理学研究所(INFN)〔イタリア〕
 ○ フラスカーティ国立研究所
 ○ グラン・サッソ国立研究所
 ○ レニャーロ国立研究所
● サンフォード地下研究施設(SURF)〔米国〕
● SNOLAB〔カナダ〕
● TRIUMF〔カナダ〕


Interactions Collaborationについて

Interactions Collaboration(Interactions.org)は、素粒子物理学の国際的な研究活動を支援し、国境を越えた平和的協力の確かな足跡を築くことを目指しています。
www.interactions.org/photowalk のウェブサイトは、欧州、北米、アジア、オーストラリアの素粒子物理学研究所・機関を代表するメンバーで構成されるInteractions Collaborationによって開発・共同運営されています。運営には、多くの国の科学研究助成機関からの資金提供が行われています。

グローバル・フィジックス・フォトウォーク問い合わせ先

ブルックヘブン国立研究所:Stephanie Rucco(skossman@bnl.gov
カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU):角林 元子(motoko.kakubayashi@ipmu.jp

各地域フォトウォーク問い合わせ先

アジア
KEK:広報室(press@kek.jp)
J-PARC:広報セクション(web-staff@j-parc.jp)

ヨーロッパ
CERN:Daniela Antonio(daniela.maria.antonio@cern.ch
CNRS 原子核・素粒子部門:Perrine Royole-Degieux(royole@in2p3.fr
INFN:Martina Galli(martina.galli@presid.infn.it
または Francesca Mazzotta(francesca.mazzotta@presid.infn.it

北米
Fermilab:Madeleine O’Keefe(mokeefe@fnal.gov
SNOLAB:Blaire Flynn(Blaire.Flynn@snolab.ca
SURF:Matthew Kapust(mkapust@sanfordlab.org
TRIUMF:John Biehler (jbiehler@triumf.ca)

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