
素粒子原子核研究所に所属し、Belle II実験に参加している博士研究員のフィランジェ・トリスタン(Tristan Fillinger)さんの母国はフランスです。KEKに来て2年だというトリスタンさんに日本での生活について、話を聞きました。
外国人来訪者の施設見学対応で待機中に言葉を交わした際、インタビューしたいと思いました。引き受けていただき、ありがとうございます。最初に自己紹介をお願いします。
北東部アルザス地方のストラスブール大学出身です。博士号はユベール・キュイア学際研究所(IPHC)で取得しました。IPHCにはBelle II実験に参加しているグループがあります。そこにいた時にB2GM(Belle II General Meetingの略)の会議で2回の来日経験があり、その縁でKEKに来ました。
KEKとフランス原子核素粒子研究所(IN2P3/CNRS)、フランス宇宙基礎科学研究所(Irfu/CEA)が共同で立ち上げた仮想連携研究所である湯浅年子ラボラトリー(TYL)が若手研究者に与える賞を、2023年に受賞していますね。
はい。受賞の対象となった論文は、2022年の末に発表したB中間子の輻射崩壊(B中間子が高いエネルギー光子を放出して、より軽い他の中間子に崩壊する現象)の時間の関数としての非対称性の測定に関するものです。
現在の業務について教えてください。6月のBファクトリー物理勉強会とNew Physics Forumの合同研究会では講演を行ったそうですが、どのような内容を話したのですか?
普段はデータ解析を行っています。先日の研究会ではBelle II実験でのB中間子のタウレプトンとニュートリノへの崩壊と、ミューオンとニュートリノへの崩壊の研究の現状について講演しました。
Belle IIは唯一無二の実験です。自分がその実験のために必要なデータを集め、解析し、将来の偉業達成を手助けできたなら、大変光栄に思います。
KEKで働くようになってからSuperKEKBの研究者とも話をするようになりました。これまでそういう体験がなかったので、貴重です。所属の違う職員と交流があるというのは、KEKならではの特徴ではないでしょうか?
私がインタビューをお願いしたいと思った理由のひとつにお名前があります。「TRISTAN」はSuperKEKBの前身であるKEKBのさらに前身にあたる円形衝突型加速器で、「Transposable Ring Intersecting Storage Accelerator in Nippon」の略です。ワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」にちなんで名づけられました。日本に来る前にそのことを知っていましたか?
全然知りませんでした。何しろ自分が生まれる前のことなので。こちらに来てから知って驚きました。「Tristan」は自国ではそれほど多い名前ではないのですが、実は、KEKにはもうひとり同じ名前の研究者がいます。そちらはオーストラリア人です。
また、アルザスと聞くと私の世代は国語の授業で習ったアルフォンス・ドーデの「最後の授業」を思い出します。普仏戦争の結果、プロイセン(現ドイツ)に占領されてフランス語の授業が禁じられることになった小学校の話です。現在では教科書に載っていないそうですが、フランスではいかがですか?
その話も初めて聞きました。私の周囲では知らない人がほとんどです。両親も自分もドイツ語は話しません。祖父母はドイツ語を話しますが、アルザス地方の方言がドイツ語と似通っているため相互に理解しやすいという背景があるかと思います。
そうでしたか。アルザスの中心都市であるストラスブールはクリスマスマーケットで有名ですね。どのような催しですか?
世界的に見てもすごく規模が大きいです。街の中心に大聖堂があって、まわりに木組みの家が立ち並んでいます。その中に立てられた巨大なツリーがライトアップされた景色はとても美しいです。シャレーと呼ばれる屋台小屋でいろいろなものを売っています。ぜひみなさんに来てほしいです。
いつか行ってみたいです。実際に日本に住んでみた感想はどうでしょう?
自然が豊かで静かですね。桜の季節に京都を訪れたことがあります。本当にきれいでした。フランスにも桜がないわけではないのですが、少ないですし、そもそも花見の習慣がありません。人が集まるといったらもっぱらバーベキューです。
日本の建物やお寺、お祭りにも興味があります。最初の一年はつくばに住んで職場と家との往復でしたが、今は北千住(東京都足立区)に住んでいて、いろいろな場所に足を運んで楽しく暮らしています。たまにフランスに帰っても「ああ、早く日本に戻りたい」と思うほどです。
先日は逗子海岸(神奈川県逗子市)で花火を見ました。こちらでは年間を通してあちこちで花火のイベントがありますが、フランスでは、花火は7月14日の革命記念日と新年の2回くらいしか見られません。
好きな日本食は天ぷらです。渋谷で食べたアボカドの天ぷらは絶品でした。カボチャやシイタケの天ぷらも好きです。納豆はダメですね。子供の頃からなじんでいれば別でしょうが、大人になってからだとなかなか受け入れられないのではないでしょうか。
人に関しては、物腰が丁寧でよくお辞儀をする姿が印象的です。ヨーロッパの国々とは全く異なる文化だと思います。
何か趣味はありますか?
フランスにいた時は地元のシンフォニックオーケストラで10年間打楽器を演奏していました。最近はドラムです。『太鼓の達人』を知っていますか?クールですよ。それとビデオのカードゲームもやっています。
日本にいる間に行ってみたい場所や、やってみたいことはありますか?
これから行きたい場所は、まずは富士山です。山頂に登ってご来光を拝みたいです。そして北海道や箱根にも。その他は青島(愛媛県大洲市)です。猫がたくさんいる島です。YouTubeで見つけました。
任期が延長になり、引き続きあと3年間KEKにいられることになりました。その間に日本語がもっとうまくなりたいです。ずっと滞在するためには言語は必要不可欠だと思うのです。ひらがなとカタカナは覚えましたが、自分には漢字のハードルが高いです。敬語もむずかしいですね。
意気込みがすごいです。敬語は日本人にとってもむずかしいですよ。私はフランス語を勉強したいです。
今度はあなたのフランス語と私の日本語で会話しましょう。日本語で話せるよう頑張ります。
楽しみにしています。
(聞き手:広報室 海老澤 直美)