
2024年12月24日から27日にかけて「KEKウィンター・サイエンスキャンプ2024」を開催しました。全国から応募があり、その中から選ばれた24人の高校生・高専生がKEKに集まり、KEK内の宿舎で寝食を共にしながら研究体験をしました。3泊4日のプログラムの様子を紹介します。
開講式・導入講義・アイスブレイク


開講式では、KEKの説明や教員やスタッフ紹介ののち、参加者が個性豊かな自己紹介を行いました。その後、導入講義として広報室の青木 優美がKEKの研究と研究のまとめ方を説明。続いて、アドバイザーの重中 茜先生(茨城県立太田第一高等学校)と齊藤 孝通先生(茨城県立竜ヶ崎第一高等学校)が準備したアイスブレイク「ペーパータワー」で交流を深めました。


実習
アイスブレイクの後、さっそく実習を開始。実習は「素粒子」「回折」「加速器」「放射線」をテーマにした4コースに分かれて行いました。
Aコース:素粒子を見てみよう
講師:素粒子原子核研究所 江成 祐二准教授、池上 陽一講師
空から降り注ぐ「ミュー粒子」と呼ばれる素粒子の速度を測定しました。ミュー粒子などの電気を帯びた粒子が当たると蛍光を出す物質をシンチレーターといい、この物質を使った検出器を「シンチレーションカウンター」と言います。これは、実際の素粒子実験でも使われている検出器です。参加者は、シンチレーションカウンターを自ら組み立て、ミュー粒子が通ることで出てきた光を電気信号として取り出し、オシロスコープで測定しました。ミュー粒子が二つの検出器を通ったときの電気信号をそれぞれ測定し、その時間差から速度を計算で求めました。


Bコース:回折で小さなものを見てみよう
講師:物質構造科学研究所 奥山 大輔准教授、中村 惇平技師
光を使って物質(結晶)の構造を見る方法を学びました。KEKフォトンファクトリーでは、X線が物質の原子に当たるときに生じる「回折」という現象を利用して、物質の内部構造を詳しく調べることができます。今回の実習では、レーザーポインターと「回折格子シート」を使って、光が物体に当たったときに生じる回折や干渉の現象を観察しました。この「回折格子シート」は、非常に細かい線が網目状に並んだ透明なフィルムで、レーザー光を通すと碁盤の目のように明るい点が現れます。実験では、この点の位置や明るさを測定することで、回折格子シートの線の間隔を求めました。


Cコース:電子ビームを制御してみよう
講師:加速器研究施設 篠原 智史助教、塩澤 真未准技師
加速器で実際に使用される小型の電磁石と電子ビームを発生·観察できるクルックス管を使って、電子ビーム制御の基礎に触れました。加速器では、電磁石を使って電子ビームを曲げています。実際の加速器では電子ビームは目に見えませんが、クルックス管を使えば、電子が通った跡が光って見えます。参加者は実際の実験さながらに、必要な機器の位置調整を行い、電磁石の磁場測定や、電子の質量測定を行いました。


Dコース:放射線を知ろう
講師:共通基盤研究施設 坂木 泰仁(さかき やすひと)助教、與那嶺 亮(よなみね りょう)研究機関講師、岩瀬 広准教授(協力)
放射線の性質を学び、光子が物質の中の電子と衝突する確率を測定しました。放射線と物質の相互作用に関する研究や技術開発は、加速器科学に不可欠です。参加者は、放射線検出器の回路を製作し、放射線源と検出器の間に遮へい体を挟み通過した光子の量をエネルギーごとに測ります。測定結果から、電子の見かけの半径を計算し、物質によって変わらないことを確かめました。


参加者は、講師に質問したり参加者同士で議論したりしながら、一つ一つ測定原理や計算方法などを理解していました。地道に測定を重ね、誤差を減らすために試行錯誤していました。
施設見学
実習の合間にはKEKの施設見学も行いました。世界最大の衝突性能を持つSuperKEKB加速器の測定器 Belle IIが設置されている筑波実験棟と展示室、そしてフォトンファクトリーを見学しました。初めて目にする研究の現場に、参加者たちは目を輝かせていました。


参加者同士の交流
1日目の夜 は、夕食を共にしながら、物質構造科学研究所の梅垣 いづみ校長をはじめ、各コースの講師たちが、参加者から寄せられた質問に答えました。「研究をしていて、楽しかったことは?辛かったことは?」「研究者を目指すに当たって高校時代にやった方がいいことは?」など、幅広いテーマが話題となりました。その後、参加者が1日目の感想を発表しました。


2日目の夜は参加者同士の親睦を深める交流会が行われました。アドバイザーの岩渕 泰徳(いわぶち やすのり)先生(茨城県立日立工業高等学校)、天目 直宏(てんもく なおひろ)先生(同校)によるレクリエーション「数字当てゲーム」と「自己紹介クイズゲーム」で盛り上がりました。


成果発表会・閉講式
最終日にこれまでの3日間の成果を発表し合いました。質疑応答の時間には多くの質問が飛び交い、まるで本物の学会のような活気あふれる場となりました。


昼食を挟み、閉講式が執り行われました。KEKの浅井 祥仁機構長から参加者一人ひとりに「未来の博士号」と書かれた修了証が手渡されました。また、アドバイザーの茨城県立土浦湖北高等学校 入野 寿洋(いりの としひろ)先生、茨城県立麻生高等学校 森作 実玖也(もりさく みくや)先生含め、講師陣全員からの温かい激励の言葉が贈られました。参加者たちは笑顔で4日間を締めくくりました。


ウィンター・サイエンスキャンプは、科学技術振興機構(JST)の委託事業として2006年に始まり、2015年からKEKの主催事業になりました。2024年度は前年度に引き続き、寄附金による事業として実施しました。改めてご寄附に感謝いたします。また、長きにわたりアドバイザーとしてご協力いただいている茨城県の県立高等学校の先生方にも感謝申し上げます。
KEKでは、本キャンプの他にも、4月初旬ごろに女子高校生向けの「TYLスクール理系女子キャンプ」、8月初旬ごろに高校生向け素粒子サイエンスキャンプ「Belle Plus(ベル・プリュス)」を開催しています。科学に興味を持つ若い世代の挑戦をこれからも支援していきます。