レトロ加速器、独特の形の理由は? 一般公開で特別ライトアップ

9月7日(土)に開催するKEK一般公開2024の目玉展示の一つは、現在は役目を終えたコッククロフト・ウォルトン型加速器です。これまでの一般公開でも展示されてきましたが、今年はパフォーマンス「テンプラム・フレクエンティア~素粒子の記憶~」と同じライトアップを特別に再現して展示します。

アートとサイエンスの融合

「テンプラム・フレクエンティア」とはラテン語で「周波数の神殿」という意味で、2021年のKEK50周年記念事業の一環として企画されたものです。

このパフォーマンスは、アートとサイエンスの融合を目指したもので、カラーLEDによる照明が行われ、3人のダンサーが、4人のコーラスに合わせて踊りました。神々が去った神殿のように静かにたたずんでいた加速器に光がよみがえり、やがて人間のかたちになって舞い、歌い、そしてまた元の暗闇へと戻っていく展開です。YouTubeで公開されています。

パフォーマンス「テンプラム・フレクエンティア~素粒子の記憶~」
「テンプラム・フレクエンティア~素粒子の記憶~」(YouTube配信画面から)

特別ライトアップ

KEKにコッククロフト・ウォルトン型加速器は2基ありました。1976年から使われていた1基は解体されましたが、1982年から使われているもう1基が往時のまま残されています。

今も残るコッククロフト・ウォルトン型加速器は、1976年から2005年12月末まで約30年にわたって実験をしていたKEKで最も長い歴史をもつ加速器、陽子シンクロトロン「12GeV PS (Proton Synchrotron)」の前段加速器として1982年から活躍していました。

特別ライトアップの準備が8月20日に行われました。メディアアートの鬼才で、パフォーマンスのプロデューサーである森脇裕之多摩美術大学教授らが数時間かけてLEDや小道具の人形をセットしました。

一般公開当日は10:00〜15:15の間、1時間おきに毎正時から約15分間特別ライトアップします。ぜひご覧ください。撮影自由ですので、”映える”ショットを存分にものにしてください。それ以外の時間帯も自由に見学していただけますが、地下室や階段は狭いため、特別ライトアップ中も含めて入場定員を設定します。安全確保のためで、あらかじめご了承ください。会場は構内バスのバス停B近くです。

独特なかたちの理由

ところでコッククロフト・ウォルトン型加速器はなぜ、神殿のようにも見える独特のレトロ風形状をしているのでしょうか。

英国のジョン・コッククロフトとアイルランドのアーネスト・ウォルトンが1932年、史上初めて加速器を使って原子核の変換反応を起こすことに成功し、2人はこの功績で1951年、ノーベル賞を受賞していますが、その実験に使われたのがこのタイプの加速器です。

静電型加速器とも呼ばれ、コンデンサーと整流器を何段か重ねた回路で高電圧を発生し、水素イオン(陽子)を加速します(この回路は、護身用のスタンガンにも使われています)。静電型の加速器では、高い電圧をつくることがそのまま高いエネルギーの粒子を得ることを意味します。

KEKのコッククロフト・ウォルトン型加速器の回路図
KEKのコッククロフト・ウォルトン型加速器の回路図。図の右側にコンデンサーと整流器の記号がある

高電圧を発生する装置の主な部品はコンデンサーと整流器です。垂直な碍子(がいし:一般的には送電線の絶縁体として使われます)の内側にコンデンサーが入っており、斜めのはしごのように見えるのが整流器です。碍子の周りの丸みを持ったつばのようなものは、放電防止の「コロナリング」と呼ばれるものです。立方体のような箱は、絶縁されていて負の水素イオンを加速する装置です。装置全体が丸みを帯びているのも放電を防ぐためです。これらの理由から独特の形となりました。

かつてつくばにあった陽子シンクロトロン

しかし、静電型加速器だけでは高い加速エネルギーを得ることができません。十分なエネルギーを得るためには、多段階で加速するのが一般的です。静電型加速器のあと に、高周波を利用する線形加速器(リニアック)や、ブースター、主リング(シンクロトロン)と呼ばれるものをつなぎます。

KEKの陽子シンクロトロンの概念図
KEKの陽子シンクロトロンの概念図。コッククロフト・ウォルトン型加速器はその前段加速器だった(図の左下部分)

陽子の「原料」は水素ガスです。加速効率を高めるため、水素原子に電子を付けた負の水素イオン(水素化物イオン)をいったん作り、コッククロフト・ウォルトン型加速器の高電圧で750keV(光速の4%)まで加速します。さらに線形加速器で加速したうえで、負の水素イオンを正の水素イオン、すなわち陽子に戻してブースターに入射します。

陽子シンクロトロンで陽子は12GeV(光速の99.7%)まで加速され、高エネルギー物理学をはじめ、中性子、中間子ビームによる物質科学など、広い分野の研究に利用されてきました。ニュートリノを発生させ岐阜県飛騨市のスーパーカミオカンデに打ち込むK2K実験もその一つです。

医療にも応用され、筑波大学と連携してがん陽子線治療にも使われていました(今回の一般公開では、KEKコミュニケーションプラザで、陽子線の医療応用に関する展示「日本の陽子線治療のあけぼの」と、ミニトーク13:30 ~ 14:30も行います)。KEKコミュニケーションプラザは構内バスのバス停A近くで、コッククロフト・ウォルトン型加速器からも歩いて行ける距離です。

つくばキャンパスには現在、陽子を加速する加速器はありませんが、30年間にわたる 陽子シンクロトロン運転の経験と伝統は、東海キャンパスにあるJ-PARCの陽子加速器へと引き継がれています。なおJ-PARCでは9月28日(土)に施設公開が行われます。

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