【KEKのひと#58】J-PARCの活動を応援してもらうために 青木正(あおき・ただし)さん

発案されたJ-PARC Newsの「さんぽ道」の連載は、6月号で47話になりましたね。日常生活と科学を結びつけた独自の視点が魅力的です。

J-PARC広報セクションの平時の最も重要な業務は、多くの人がJ-PARCに対して好印象を持ち、J-PARCの活動を応援してもらうことかと思います。しかしながら、世の中の人がみんな科学に理解を示し、科学の進歩を期待しているわけではありません。中には最先端の科学や技術は恐ろしいもので、環境破壊や紛争、失業の要因をつくっていると思う人がいることは事実です。そのような人たちに対して、「どうだ!おれたちはこんなすごい研究をしているんだ!」と言ったとしても、逆効果になりかねません。

「さんぽ道」は、研究成果の発表とはちょっと別の角度から、J-PARCや周辺の出来事を読者の皆さんの感性に訴えることにより、自然にJ-PARCを理解してもらえるよう、心がけています。

他にはどのような業務を担当していますか?

見学対応ではJ-PARCの概要説明や現場の案内をしています。施設公開、講演会、課外授業などのイベントのお手伝いもしています。これらはみんなライブです。コンサート会場や美術館、劇場などと同じように、現場でしか得られない雰囲気を提供できればと思っています。

ライブ活動はJ-PARC側が説明するだけの一方通行ではありません。私たちは来訪者の皆さんがJ-PARCの何に期待し、どんな疑問を持っているかを直接知ることができます。来訪者が何気なく発した質問やコメントの中に、私たちが思いもよらなかった研究に対するヒントが含まれているかもしれません。このような橋渡しも、広報セクションの業務の一環と思っています。

大型放射光施設SPring-8(兵庫県佐用町)での単身赴任中、雑誌「旅」が募集していたコンテストに応募した「『ひかり』で月見」が、平成9年11月に「第6回JTB旅行記賞」を受賞しました。どういう内容でしょうか?

単身赴任先の相生駅から東京駅に帰る新幹線からの車窓を、延々と描いたものです。月が刻々と移動する様子に家族のエピソードを絡めました。「こんなものが旅行記か」というような作品ですが、客観的で今までにない新鮮さがあるという評をいただきました。その後も小品を応募して何回か受賞しています。一昨年、日本ペンクラブのE(エッセイスト)会員として登録させていただきました。

風景だけではなく月の変化に着目する、そのような理系ならではの感覚が「さんぽ道」を始め、業務に生かされているのだと思いますが、いかがでしょうか?

SPring-8立ち上げの7年間とJ-PARCに来てからの10年間は、予算要求を担当していました。資料作りは厳密さを要求されますが、全体構成はエッセイを書く要領と共通した部分があり、相手の感性を刺激することで説得力が増すことを実感しました。

ところで、旅に通じますが、登山が趣味だそうですね。

もともと山は好きでしたが、子供に手がかからなくなって、高い山へも登るようになりました。山歩きは絶対的な体力や運動神経がほとんど必要ないので、この歳になっても続けています。今年のゴールデンウィークはヒマラヤを見に行ってきました。4年前にJ-PARC職員を中心に「歩こう」というグループを立ち上げ、現在では59名の会員がいます。

ピアノもたしなんでいらっしゃるとか?

SPring-8の播磨時代に続き、東海村に来てからもずっと単身赴任です。その間、休日は山歩きをしていましたが、平日、定時で帰った夜は酒を飲むなど、ろくな時間の使い方をしていませんでした。20年前に何か始めようと思い立ち、ピアノの先生につきました。今もアパートの電子ピアノで練習しています。この4月にも孫くらいの生徒さんと一緒に発表会に出演しました。

最後に今後の仕事の抱負をお願いします。

J-PARCは研究内容も期待される成果も非常に多岐にわたっており、その魅力を一言で発信するのは難しい研究施設です。「大量の陽子を光速近くまで加速し、ターゲットに当て、さまざまな二次粒子を発生させ…」と説明しても、なかなか「ほう、なるほど」とはなりません。

私たち広報セクションでは、J-PARCを「どのような手段(How)で」PRするのかということに、時間を割いています。しかし今は「何(What)を」PRするのか、ということを考える時に来ていると思います。私自身、その結論を見いだせていませんが、J-PARCの真の魅力とは何か?J-PARCが目指す最終的な目的とは何か?J-PARCが胸を張ってPRできる内容を、広報セクション員全員で模索できればと思っています。

また近いうちに山歩きなどでご一緒できればと思います。ありがとうございました。

(聞き手:広報室 海老澤 直美)

関連リンク