4月3日から4月4日の1泊2日で、女子高校生のためのサイエンススクール「TYLスクール 理系女子キャンプ2024」を開催しました。このスクールは、KEK 男女共同参画推進室とToshiko Yuasa Laboratory(TYL)の共同企画として、お茶の水女子大学・奈良女子大学との共催で運営されています。
Toshiko Yuasa Laboratory は、2006年に「日仏素粒子物理学研究所」として活動を始めた日仏連携研究所で、2010年からTYLと呼ばれるようになりました。この名前は、フランスを中心に国際的に活躍した女性物理学者 湯浅 年子(ゆあさ としこ)博士の偉業にちなんで名付けられたものです。この日仏共同事業では、共同研究のほか、科学技術分野への女性の進出を応援するための事業に取り組んでいます。
理系女子キャンプでは、全国から応募した30人の女子高校生が、KEKつくばキャンパスで実験やパネルディスカッション、施設見学ツアーなどへ参加します。それらを通して、進路について考え、ビッグサイエンスの現場を体験し、そこで活躍する女性研究者や技術者と交流してもらおうという企画です。
放射線を学ぶ
マリー・キュリーの足跡
入校式とガイダンスの後、このサイエンススクールのために作成したマリー・キュリーの業績や人生についての読み物「マリー・キュリーの足跡」が紹介されました。湯浅 年子 博士は、マリー・キュリーから大きな影響を受けただけでなく、マリーの娘イレーヌの指導の下、博士号を取得しました。さらに、イレーヌの娘エレーヌが年子の計画した実験を引き継ぐなど、キュリー家と深い関係があることにも触れられています。
会場では理系女子キャンプの発起人の一人である幅 淳二(はば じゅんじ)名誉教授が解説者となり、輪読を行いました。
霧箱を使った科学実験
その後、3人ずつ10班に分かれて霧箱実験を行いました。霧箱とは、アルコールの気体で飽和状態にした空間を作り、放射線が通過した跡を、まるで飛行機雲のように目に見えるようにする装置です。
自分で霧箱を作る
今回の実験では、準備された部品とドライアイスを使って、一人一つの霧箱を自作しました。部屋を暗くしてライトを照らすと、自然界から飛んでくる放射線を可視化することができます。参加者たちは、自分で作った装置で目に見えない放射線を見ることができたことに感激し、目を輝かせていました。放射線の飛跡の見え方は、アルコール気体の温度などや光の当て方によって変わるため、それぞれが工夫し協力し合って実験を進めました。
観察結果から半減期を計算する
実験の後半では、二段階で放射性崩壊するラドン-220が出すアルファ線の飛跡を観察し、半減期の算出に挑戦しました。自作の霧箱や大型の霧箱装置で飛跡の動画を撮影して、2つのアルファ線が連続して出た(V字に見える)ものを探し、ラドン-220が崩壊してできるポロニウム-216の生存時間を測ります。それぞれが観測した生存時間データの分布から半減期を求めました。参加者たちは班ごとに丸テーブルを囲み、熱心にデータの解析を行っていました。
教えて先輩!理系な女子会@KEK
夕食を挟んで、物理学や数学を研究している女性研究者・女子大学院生とのパネルディスカッションを行いました。3人の理系女子の先輩たちがそれぞれ自己紹介や研究内容の紹介を行った後、参加者からの質問に答えました。
参加者の一人からは「これからの人生のヒントになることばかりで、非常にためになる時間でした。大学院生になって、いっぱい研究したいなと思いました」という感想が寄せられました。
女性研究者による講義
2日目の午前中は、第一線で活躍する女性研究者による講義がありました。東京理科大学の矢田 詩歩(やだ しほ)さんは、洗剤や化粧品などに使用されている界面活性剤についての研究を紹介しました。続いて、フランスにある研究所 IJCLabのYasmine sara Amhis さんが、フレーバー物理について美しい写真を見せながら解説しました。最後に、東北大学の渡辺 寛子(わたなべ ひろこ)さんは「地球ニュートリノ」を地表で観測し、地球内の熱量を測る研究について講義を行いました。
それぞれの講義後には、参加者たちが積極的に手を上げて質問していました。「海外での研究発表についての話が大変印象に残っている。自分がしている研究を異国の地の人に認められることには憧れがあり、いつか私もそのようになりたいと思った」という感想が聞かれました。
加速器体験ツアー
2日目の午後には2班に分かれてバスに乗り、KEKつくばキャンパス内の実験施設の見学を行いました。見学した施設は、素粒子物理学実験のための「Belle II測定器」、放射光実験施設「フォトンファクトリー」、エネルギー回収型線形加速器「コンパクトERL」の3つです。
それぞれの実験施設では研究者が待っていて、研究内容や実験の方法、実験に使われる装置の説明などを行いました。「実際に実験装置を見ることができたので圧倒されたし、将来自分もこんな格好いいところで働いてみたいと思った」という感想を寄せた参加者もいました。
プログラムを終えて
見学の後に全員が集合して閉校式が行われ、それぞれが修了証書を受け取りました。野尻 美保子 校長は、今回の経験を理系の道を歩むための糧として、またKEKに戻ってきてほしいと話しました。
このサイエンススクールに参加して、「高校では私と同じ物理を選択している人が少なくて寂しかったのですが、今回のキャンプに参加している人には物理の選択者がとても多くてうれしかったです」というコメントが寄せられました。また、「同じ理系女子でも異なる分野に興味のある同世代の方々とお会いできたことで、この経験をしなければ自分が一生知らなかったであろうことを一緒に話をすることで知ることができ、自分が高まった」「KEKの雰囲気がとても良くて、将来研究者になりたいと思えた」という感想を寄せた参加者もいました。プログラムが終わっても、仲良くなった参加者同士で話し合う姿も見られました。
理系女子キャンプ