加速器でつくる中性子星のあんこ

中性子星の想像図(NASA/Dana Berry)

太陽系内の天体なら、はやぶさ2のような探査機が訪問し、試料を持ち帰って調べられる時代になった。だが何千光年も離れた天体の試料を入手して調べることなど到底無理だ。ところが加速器をはやぶさ2のように使っている人たちがいる。

東北大学理学部の田村裕和教授のチームは、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)で、「ハイパー原子核」なるものをつくる実験を続けている。

原子は電子と原子核からできていて、原子核は陽子と中性子からできている。

陽子や中性子は、それ以上分けられない素粒子だと思われていたが、今はクォークと呼ばれる素粒子が3つずつ入ったものと分かっている。宇宙が誕生したころ、クォークは6種類あったと考えられているが、壊れやすい重いクォークはどんどん壊れて軽いものに変わり、現在の宇宙は最も軽い2種類のクォークしか存在しない。それらはアップクォーク、ダウンクォークと呼ばれ、陽子・中性子のもととなっている。

私たちの周りの物質は、突き詰めるとアップとダウンのクォークと電子の3種類の素粒子からできている。これが一般的な世界観だ。

ところが宇宙には変わり者がいる。その最右翼といっていいのが中性子星だ。恒星が燃料を使い果たしたあとに超新星爆発を起こして残った「芯」のような天体で、半径は10~15km程度しかないのに質量は太陽並みにある。角砂糖1個の体積で10億~20億トンに達する。きわめて規則的にパルス状の電磁波を出す天体であるパルサーとして、約3000個見つかっている。

それだけでも想像を絶する世界だが、さらに驚くのはその真ん中の、まんじゅうでいえば「あんこ」に当たる部分に、アップとダウン以外のクォークを含む物質があるはずだということだ。失われてしまった4種類のクォークの中では比較的寿命が長い「ストレンジ」というクォークがあんこの中に存在するほうが、より安定した状態になることが分かっている。

実は、この中性子星のあんことそっくりの原子核「ハイパー核」を、加速器実験でつくることができる。陽子のビームを金の標的に当て、出てくる粒子をさらに普通の原子核に当てると、運がよければストレンジクォークを含むハイパー核が出来るのだ。これこそ、中性子星のあんこのかけらだ。

だがこの反応の効率は悪い。100兆個の陽子から1個のハイパー核ができるかどうかなのだ。

ここでJ-PARCの「大強度」陽子ビームがものをいう。とにかくぶつけられる陽子の数が多く、反応をたくさん起こせる。陽子のエネルギーがほどほどであることもあんこ製造向き。ストレンジが2個入った濃いあんこができるときもある。

J-PARCのおかげで、日本のハイパー核研究は世界トップクラスだ。ストレンジ1個入りのハイパー核は41種つくられているが、うち21種が日本製。2個入りの濃いハイパー核はすべて日本製だ。

あんこのかけらをつくって性質を詳しく調べ、理論的な研究と組み合わせることで、中性子星の構造が見えてきている。中性子の厚い皮の内側に、ストレンジの混じったあんこ、さらに内側にはストレンジが多く混じった濃いあんこ…やや複雑な味わいのまんじゅうだ。

加速器を使うことで、遠く離れた風変りな星の構造を推定できるという不思議な研究だが、話はここでは終わらない。

10年ほど前、太陽の約2倍の質量を持つ中性子星が見つかった。実験データを元にした理論によると、これだけ重いと自分の重みでつぶれてブラックホールになるはずだが、なぜか中性子星として居座っている。実験と天体観測の結果が矛盾しており、天体物理学と原子核物理の最大の謎とされている。

ハイパー核が自然界に存在すれば、今の宇宙にある物質をつくる素粒子は実は3種類ではなく4種類となり、私たちの世界観は大きく変わる。しかし、この謎が解決しなければ先には進めない。

田村教授は「もっとちゃんとハイパー核のデータを取らないといけない。それはJ-PARCでしかできない。この謎を今後10年ぐらいかけて解決したい」と話している。

東北大学理学部 田村裕和教授

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