KEK特別栄誉教授の小林誠博士と京都大学名誉教授の故・益川敏英博士によるいわゆる「小林・益川理論」が1973年に発表されてから今年が50周年になることを記念する一般向け講演会が2月18日、東京都千代田区の一橋講堂で開かれました。KEKが主催し会場には約170人が来場。ライブ配信は約240人が視聴しました。
小林・益川理論は、今回の講演会タイトルの問いかけ「なぜ、人類は宇宙に存在しえるのか?」に深くかかわる理論です。具体的には「この宇宙にはなぜ物質だけが残り、反物質は見当たらないのか」という謎を解く手がかりとなります。その業績で両博士は2008年、ノーベル物理学賞を共同受賞しました。
今回の講演会の第1部では大栗博司・東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)機構長、山内正則・KEK機構長の講演があり、そのあと小林博士が登壇しました。
まず理論が発表された1970年代の素粒子物理学を振り返りました。「大きな転機でした。その時期に素粒子物理にとって重要な成果の多くが出ており、私たちの仕事もその一つとして数えてもらっていています」と話しました。
当時、小林博士は出身の名古屋大学から京都大学の助手に採用されたばかり。28歳の新進気鋭の研究者でした。
「ただ進化の真っただ中にいた者にとっては、その時期がどういう意味を持っているかを俯瞰的に見ることはできていなかったというふうに思います。流れの中で必死にもがいていたというような気がいたします」
そして講演を「若い人へのメッセージ」で締めくくりました。
「変化の中にいる者にとってはその変化の意味を客観的に捉えるのは難しいものだという気がいたします。目の前で起きている変化に正面から取り組み、自らの判断で進むべき方向を決めるということが大切です」
「このときどの方向へ進むかは人によってそれぞれ。その多様性こそが科学の発展の原動力だと考えます。若い皆さんがそれぞれの分野で活躍されることを期待しています」
第2部では、東大発の知識集団「QuizKnock」の須貝駿貴さんと「宇宙タレント」の黒田有彩(ありさ)さんがファシリテーターとなり、小林さんら登壇者に市川温子・東北大学教授、中浜優・KEK准教授が加わってパネルディスカッションを行いました。
小林・益川理論は2001年、KEKで行われたBelle実験で実証されましたが、当時の気持ちを黒田さんに問われて小林博士はこう答えました。
「実験結果が理論と合わないほうが大発見なので、世の中は全体として『合ってほしくない』という雰囲気でした。私自身も、半分ぐらいそういう気持ちがありました。自分の予想通りだと、次に未知の理論に進むための手がかりにならないということなのです。理論屋としては」
この意外な反応に会場はわき、当時Belle実験の中心の一人だった山内機構長も「初めて聞きました!」と驚いていました。
ノーベル賞につながったこの理論の論文はわずか6ページの短いものです。実物はノーベル賞メダルの複製や授賞式の写真などとともに会場でも展示され、来場者が見入っていました。
今回の講演会のアーカイブ動画は下記でご覧いただけます。また 、来年度に発行する予定の新しいKEK広報誌でも特集する予定です。