50周年記念の第3回KEK公開講座を開催

KEK創設50周年を記念した第3回KEK公開講座が10月9日(土)、Zoomを使ったオンラインで開かれ、物質構造科学研究所の千田俊哉教授が「生命の謎を探る”ハイテクな顕微鏡たち”」と題して、タンパク質の立体構造解析の最前線を解説しました。参加者は約80人で、熱心な質問が数多く寄せられました。50周年記念シリーズの第4回は10月16日(土)に行われます。

千田さんはまず「20種類のアミノ酸からできているタンパク質は“細胞の要”です」とし、「このタンパク質の仕組みを知りたければ、その形を調べることが大切です」 と語りました。さらに「タンパク質のような微小な構造を調べるには短い波長のエックス線や電子線で見る必要があります」と続け、立体構造を見る技術的な仕組みについて解説しました。

KEKには、強力なエックス線を使って解析する放射光実験施設「フォトンファクトリー」があります。ここの放射光を使って、タンパク質のさまざまな生物機能を原子レベルで解明する取り組みを行っています。さらに最近、タンパク質の結晶を作らなくても電子線を使って微細な構造を探索できる「クライオ電子顕微鏡」がKEKに新たに導入され、いっそう強力に研究を進めています。

現在、タンパク質の構造解析は創薬の分野で大きな威力を発揮しています。講演では、千田さんの研究成果の一つである胃がんに関する研究について紹介されました。ピロリ菌がんタンパク質CagA とその発がん標的分子のSHP2間の複合体形成を担う結晶構造を解明した結果、欧米に比べて日本で胃がんの発生が多い理由が分かりました。

講演の後は視聴者からの質問コーナーです。「エックス線や電子線を当ててタンパク質は壊れないのですか」「クライオ電顕を使うとタンパク質の挙動がリアルタイムで計測できるのですか」「電子顕微鏡の写真になぜ色がついているのですか」など多くの質問が寄せられ、千田さんは一つひとつ丁寧に答えていました。