つくばキャンパスで地域の茅葺き民家のため茅刈り作業を実施

茅刈り

茨城県の茅葺き民家を保存する活動の一環として、KEKつくばキャンパスで12月19日、ボランティアたちによる「茅刈り体験研修と茅葺き文化講座」(主催:日本茅葺き文化協会、協力:やさと茅葺き屋根保存会など)が行われました。保存会のメンバーや文化協会の呼びかけで集まった大学生など約50人がキャンパス北側にある茅場で茅を刈り、束ねて、トラックに積み込みました。作業の後は会場を変えて、近くのつくば交流センターで廣田充筑波大准教授による講演「茅と茅場:茅の持続的な生産に向けて」と質疑応答が行われました。
木・草・土などの自然素材を生かして建てられた日本の伝統的な木造建築は環境に調和した優れた伝統技術ですが、農村の近代化が進むにつれて失われつつある伝統技術でもあります。KEKはこのようにキャンパス内のススキ野を茅場として管理・提供することで、この伝統技術の保存に貢献しています。

午前10時、ボランティアたちがKEKに集合すると、茅場で茅葺き職人の指導を受けて茅刈りを開始。慣れない手つきで鎌を手に茅を刈っては束ねる作業を繰り返した。昼食をはさんで午後3時過ぎには束ねた茅をトラックに積み込んで作業は終了。文化協会の上野弥智代事務局長は、山のように積み上がった茅を見上げて「刈り取った茅は筑波山周辺の民家の葺き替えに使います」と笑顔で話していました。

つくばキャンパスに茅場ができたきっかけは、日本の木造伝統構法の専門家で当時筑波大教授だった安藤邦廣さんが、つくばキャンパスに良質の茅が群生していること聞きつけ、当時KEKの機構長だった故・戸塚洋二博士に茅場として提供できないか打診に訪れたことです。戸塚博士が茅葺き屋根の保存活動に強く共感したことがきっかけで、2004年に保存会の茅刈りが始まりました。以降、毎年12月、保存会のメンバーが刈り取りを行っています。KEKでの茅刈りは今回で17回目になります。
2013年には、つくばキャンパスに繁茂する茅場が他の植物の混入が少なく、平地で大通りに近いため刈り入れ・運搬にも適しているということなどから、文化庁から文化財建造物の修理に必要な資材のモデル供給林および研修林として「ふるさと文化財の森」に設定されました。

文化庁からふるさと文化財の森に設定されたことを示す表示板

一般的に茅場は毎年、野焼きをすることで茅の品質を一定に保つことができます。しかし、KEKの茅場では野焼きをしていないので、茅の背丈が短くなったり、不揃いだったりなど品質が年々劣化していることが問題となりつつあります。このため、野焼きをしなくても茅の品質を保つ方法はないか、筑波大学で研究が始まっています。この日のつくば交流センターの講演会でも、この茅の劣化問題が取り上げられました。

茅葺きは古代から途絶えることなく発展してきた大切な伝統建築技術です
茅は屋根に葺く植物の総称で山茅と海茅があります。山茅とはおもにススキを意味し、海茅はヨシを指します。ススキは土砂崩れや伐採跡など地表が不安定な場所に生えるので、土砂の流出を止める役割も果たします。ススキの原は次第にアカマツなどの森に移行するので、先駆植物と呼ばれ、森林回復の一翼を担っています。このため、茅葺き屋根の材料として長年ススキを確保したい場合は、ススキ原の状態を維持するため定期的に刈り入れや野焼きを行うことが必要になります。青みが残る茅はまとめておくと腐熟して保存がききません。このため関東では、晴天が続く12月ごろが、茅刈り、茅葺きをするのに適しています。

日本では茅葺きは古くからさまざまな建造物で利用されてきましたが、現在では、農村や山村の一部でわずかに残存している状態です。農村の近代化とともに茅場制度が消滅し、原野の開発によって良質な茅場も少なくなり、茅葺きの技術を伝える葺師も高齢化、減少しています。もともと地域住民による農作業の一つだった茅を育成・採取する「茅採取」の技術もどんどん失われつつあります。このような現状をどうにか食い止めようと、全国各地で茅葺き屋根の維持保存活動が展開されており、やさと茅葺き屋根保存会もその一つです。

このほど「茅葺き」と「茅採取」がユネスコの無形文化遺産に登録されました
世界の伝統文化などを保護する国連教育科学文化機関(ユネスコ)がオンラインで開いた政府間委員会で12月17日、日本が登録に向けて申請した「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」がユネスコ無形文化遺産に登録されることになりました。この伝統建築工匠の技は、「茅採取」とともに「茅葺き」「建造物修理」「建造物漆塗」「左官」「畳製作」など17の伝統技術で構成されており、奈良の法隆寺に代表される日本の伝統的な建築文化を支えてきた技術です。

茅採取がユネスコ無形文化遺産に登録されたことについて、日本茅葺き文化協会代表理事である安藤さんは「茅採取は世界の茅葺き文化を守る大切な取り組み。無形文化遺産に取り上げられたことで、この取り組みの大切さが多くの人に理解され、保護活動に参加する人が出てくると思う」と喜んでいました。

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