今の宇宙はなぜこうなのか?という疑問に数値シミュレーションを駆使して挑戦するKEK理論センター研究機関講師 山田憲和さんに聞きました。
現在どのような研究を?
「今の宇宙がなぜ今こうなのかを知りたいと思っています。宇宙の歴史のどの部分に着目するかは人それぞれだと思いますが、私の場合は素粒子が飛び交っていた時期に何が起こったのかを一つ一つ明らかにしたいと考えており、計算機を駆使する数値シミュレーションという手法で研究しています。」
宇宙の状態を時間的にさかのぼっていくイメージでしょうか。
「宇宙開闢以降、宇宙が広がり続ける中で、物質の生成または反物質の消失、更には宇宙全体を巻き込む広い意味での相転移など、様々なことが起こらなければ現在観測されているような宇宙にはなりません。究極的にはこれらの時間発展を古典的にではなく量子論的にかつ近似なしで追っていけるといいのですが、まだやり方がよく分かっていません。従って、まずは方法から考えないといけません。」
元々宇宙に興味を持たれたのはいつごろですか?
「小さい頃からテレビっ子だったのですが、中学生ぐらいの頃、ニュースでは米ソ冷戦の話題ばかりやっていました。そんな時ふと家にあった百科事典をパラパラと見ていて宇宙の写真が目に留まり、次第に引き込まれていくのと同時に、小さな地球の上で起こっている争いがなんてちっぽけなんだ、と思いました。そんなことではなく、もっと宇宙のことを知りたいと思うようになりました。」
研究者になろうと思ったのは?
「大学は、広島大学の物理学科に進学しました。修士課程が終わる頃、進学と就職で迷いましたが、素粒子物理が好きだったことと、あと当時の指導教官を見ていて『こういう人になりたいな』と思い、研究の道に進みました」
学生時代からシミュレーションを?
「はい。学生の頃から強い相互作用と呼ばれる理論の研究を数値シミュレーションを通して行っています。学位取得後は、日本学術振興会の特別研究員としてKEKに2年半程在籍し、その後ニューヨーク州にあるブルックヘブン研究所で2年間過ごしました。2004年11月にKEKに戻り、今に至ります」
高校生向けに実習で物理とは関係ない興味深いお話をされたと聞きました。
「数年前、中高生向けの素粒子物理学の講演を依頼された際、研究者自身のことについても話して欲しいという要望がありました。そこで、私は長崎と広島で生まれ育ったこと、祖母が被爆者であること、原爆の開発には多くの物理学者が携わったことを私見は述べずに紹介しました。高校生がどう感じたかは分かりませんが、心の片隅にとめておいて欲しいなと思います。」
生きている間にこういうことがわかったらいいな、と思うことはありますか?
「宇宙がなぜこうなのかを知りたいと思う反面、分かってしまうと興味を失うかもしれないので少しづつ明らかになるといいなと思います。」
実験も理論もブレークスルーを求めていますが、どういったところに新しい発見があると思いますか?
「計算機が今後も速くなっていくとすると、これを使わない手はないだろうと思います。一方、できなかった計算ができるようになるためには、プラスαの要素が必要になると思います。このプラスαが一見非常識な考え方に基づいていたりすると面白いですが。そういったことを妄想することが研究の楽しさの本質なのかなと思います。答えになっていませんね。」
遠くない未来に新しい発見があることを期待します。ありがとうございました。
(聞き手 広報室・牧野佐千子)