【KEKのひと #34】ニュートリノがわかれば、宇宙がわかる! 坂下健(さかした・けん)さん

ニュートリノについて語る坂下健さん

ニュートリノは宇宙の中に数限りなく存在し、私たちの周りにも無数に飛び交っています。しかし、物質とほとんど反応しないためになかなか捉えることができず、これまでニュートリノの性質はほとんど分かっていませんでした。そのようなニュートリノを詳しく調べるT2K実験で、ニュートリノビームを作り出す側に携わるKEK素粒子原子核研究所准教授の坂下健さんに聞きました。

―現在、どのような研究を?

「T2K実験に携わっています。ニュートリノとその反粒子である反ニュートリノを茨城県東海村のJ-PARCにある実験施設で大量に作り出し、約300キロ先にある岐阜県飛騨市の神岡町にあるスーパーカミオカンデに飛ばして観測。その違いを調べる実験です。私はその作り出す側で、普段はJ-PARCにいます」

―ニュートリノはどのような粒子?

「ニュートリノの特徴は、まずほかのものとほとんど反応しないということです。例えば電子は、10センチの鉄の壁があれば鉄と反応して止まるのですが、ニュートリノは地球50億個分である60兆キロの厚さの壁でないと止まらない。質量もほかの素粒子よりも6桁くらい小さいです。T2Kも300キロ、地中を通過させて神岡まで飛ばします。スーパーカミオカンデ検出器の中でものすごくまれに反応して作り出される粒子を捉えてニュートリノを調べます」

―ものすごくまれに反応するのが面白いところであり、難しいところでもありますね。

「実証にはたくさんのデータが必要なので、とにかくたくさんニュートリノを作り出すことと、ものすごく大きな測定器が必要です」

―1998年に梶田隆章さんがニュートリノ振動を発見し、2015年にノーベル物理学賞を受賞したのは、素粒子物理学の世界でどのような意味がありますか?

「それまでは、素粒子物理学の標準模型で3種類あるニュートリノは、どれも質量がゼロと考えられていました。この発見で、ニュートリノが質量を持っていることが分かったため、標準模型では説明できない現象が出てきたことになります。本当に大発見だと思います。この発見が今後の新しい物理模型を構築するための重要な手掛かりになるのでは」

―ニュートリノ振動発見の時は何をされていましたか?

「富山大学の学部にいて、バイトに明け暮れていたので、実はリアルタイムにそのニュースを見たりした記憶がありません(笑)富山大学の研究室は素粒子理論のみだったのですが、当時、講義を聞いていた栗本猛先生に『大阪大学に行けばおもしろい実験ができる』と勧められ、大学院は大阪大に進みました。大阪大学では、今のJ-PARC KOTO実験の前身であるKEK-PS E391a実験で中性K中間子を用いた実験で研究していました。その後、T2Kでニュートリノ振動の研究を始めたのですが、今の研究に関する大きな出来事が大学時代に近くで起こっていたと思うと不思議な感じです。」

―実験のおもしろいところは?

「装置を作り、ものを測って、先代の発見によって積み重ねられてきた物理法則に従って結果が出るのがまず面白い。装置そのものの動作も、例えば電磁気学に沿って動くものであれば、実際にそうなっているのもおもしろいです。その中で、予想と違う結果が出ることもあって、それがなぜだろうと考え、なぜ?を追求できることが超絶におもしろいです。追求した結果、想定外のことが起こっていて、その対応したらちゃんと予想通り動いくと、やったーって気分になります。その積み重ねの先に、新しい物理の発見もあって、それが実験のおもしろいところだと思います。」

―ニュートリノの性質が分かると、何が分かりますか?

「ニュートリノが分かると、宇宙が分かる。自分が生きている間に、新しい発見があればいいなと思います。いつかはわからないですが。自分が実験で測ったことが、それにつながるとうれしいです」

―ありがとうございました。

(聞き手 広報室・牧野佐千子)

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