検出や測定をするのに長い時間のかかる素粒子ニュートリノの研究に携わるKEK素粒子原子核研究所・研究機関講師の関口哲郎さん。最近は、実験も軌道に乗ってきましたが、ここまで来るのに様々な苦労もありました。この道を志したきっかけや、研究の醍醐味などについてインタビューしました。
―どのような研究をされているのですか?
「東海村にあるJ-PARCから加速器を用いて作った世界最大強度のニュートリノビームを300km先にあるスーパーカミオカンデに撃ち込んで、ニュートリノの性質を精密に調べるT2K実験に携わっています。また、将来の超大型観測装置ハイパーカミオカンデの研究開発も行っています」
―研究者になろうと思ったきっかけは?
「大学受験の浪人時代、書店で素粒子の本を見つけたのがきっかけです。これはおもしろい世界だなと。当時はなんとなく『将来は海外ですごい研究ができればいいな』と思っていたくらいですが…。慶應大の物理学科に進学しましたが、学部時代は体育会のアメフト部に所属していて、ほとんどアメフトばかりの生活で、まじめに勉強をやる学生ではありませんでした」
―大学院に進んだのはなぜですか?
「大学4年の時に、当時KEKにいらした杉本章二郎先生が、慶応大で非常勤として素粒子の講義をされていて、週1回聴講していました。海外で素粒子の研究をしたいのであればと、東大の研究室に入ることを勧められ、東大の大学院に進学しました」
―大学院時代はどのような研究を?
「アメリカのブルックヘブン国立研究所というところで、K中間子の稀崩壊の実験をしていました。100億回に1回起きるくらいの珍しい現象の観測です。そのデータの解析のため、博士課程時代はカナダのトライアンフ研究所で解析をしていました。大学院時代5年間のうち、2年半くらいは海外にいましたね」
―KEKにはいつ入られたのですか?
「大学院を卒業して、2005年です。以来ずっとニュートリノの研究をしています。T2K実験はニュートリノのCP対称性の破れを見つけるのが目的で、今年の8月に95%の確率で兆候をとらえることができました。今後測定器やニュートリノビームを増強して、その確率を99.7%まで上げるのが目標です」
―海外の研究者との実験で苦労されることは?
「海外の経験は大学卒業まで、卒業旅行に行ったくらいだったもので、言語には苦労しました。大学受験でやった程度でしたから。それでも、あちらの研究者は私のつたない英語を辛抱強く聞いてくれるので助かりましたよ。また現在は、アメリカ、ヨーロッパと共同で実験しているのですが、TV会議を行う場合は、ヨーロッパは昼間、アメリカは早朝、日本は夜中になることがほとんどで、参加するのが辛い時もあります。」
―研究の醍醐味は何でしょうか。
「特に実験開始直後などは、想定通りいかないことだらけでトラブル続きです。うまくいかない時こそ必死に考えて、新しい成果が出たり、自分の中でも発見があったりするのが原動力ですね」
―アメフトは今もされているのですか?
「大学時代から16年間続け、6年前にやめました。現在子どもが4人いて、2人目までは家族を引き連れて週末に遠くまで練習に通っていましたが、3人目が産まれてさすがにもう無理だと。きっぱりやめました」
―KEKの高校生受入れ実習など、教育活動にも力を入れられていますね。
「自分の子どもたちも、実習に来る高校生たちもそうですが、研究内容などを発信することで、科学の面白さに気が付いたり、夢を持ったりするきっかけとなってくれたらと思っています」
―ありがとうございました。
(聞き手 広報室・牧野佐千子)