目に見えない小さな素粒子の実験では、地殻変動やトラックの走る振動など、私たちが生活していて気が付かない地面のごくわずかな揺れも実験データに影響してしまいます。今回は髪の毛1本よりも小さい超微細な位置測定に成功したKEK加速器研究施設の准教授・諏訪田剛さんに、宇宙の謎を知るための超微細な技術の世界について、お聞きしました。
―宇宙の謎を解き明かすためには、超繊細な技術が必要なのですね。
「宇宙の初期の状態を知るために、『ビッグバン』のミニチュア版をつくるのが加速器での実験です。KEKで現在進行中のSuperKEKBプロジェクトは、電子と陽電子をぶつけて生まれる素粒子の反応を見ます。素粒子の反応以外の余計なノイズを減らすために電子と陽電子を効率よくぶつける必要があり、超繊細な技術が要求されます」
―諏訪田さんが携わっているのはどの部分ですか。
「SuperKEKB加速器は円形ですが、私がやっているのはこの加速器に電子・陽電子のビームを入れる『入射器』の部分です。500メートルの線形で、ビームを安定に加速させるためにまっすぐ一直線に加速装置を約45個並べます。加速装置の位置がずれてしまうと、その分ビームの方向がずれて、安定に加速されなくなってしまう。加速装置を並べる技術は、例えば175階の高さのビルの屋上から下にいる人に目薬をさすようなものです」
―それはものすごく細かな技術ですね。
「加速装置はレーザーを使って並べます。レーザーは500mの長い定規です。おおもとのレーザー発生装置自体にぶれがでてしまえば、レーザー定規もぶれてしまいますね。レーザーを安定してまっすぐにするのが重要です。2013年には、レーザーのぶれを30ミクロンの範囲に留めるほど安定させることに成功しました」
―今回さらにわかったことはどのようなことでしょう。
「これまでは、加速装置の位置を1か月に1度程度、定期的に手作業で測っていました。それだと測るたびに値が違う。レーザーが安定していないのではとも言われてきました。2015年に自動で測れるシステムを導入し、4時間ごとに8か月測ると、なんと床面が1日平均5ミクロン、それも複雑に動いていることがわかりました。8か月間で、大きいところでは加速装置の位置が0.9ミリもずれてしまっていました」
―そのずれがあると、実験にどのような影響が出てしまうのですか。
「SuperKEKBは10年間単位の計画です。小さなずれを放っておくと、何年後かには実験が続けられないくらいの大きなずれになってしまいます。現在、ビーム発生装置も開発中で、この技術が計画の中でどう効果を発揮するか、こうご期待といったところです」
―こういった測定技術は産業分野にも応用できそうですね。
「大規模地震や地殻変動の監視システムなどにも応用できるのではと思います。国民の皆さんにこういう技術があることをもっと知ってもらい、いろいろな分野で使ってもらえるといいですね」
(聞き手 広報室・牧野佐千子)