プロトン伝導体を超える超高速酸化物イオン伝導を実現「過剰酸素なのに酸素空孔拡散で伝導」

イオン伝導層を臭化物イオンで挟む材料設計で新物質を創製、低温燃料電池・電解セルへ道

東京科学⼤学
九州⼤学
⾼エネルギー加速器研究機構
J-PARC センター
熊本⼤学
法政⼤学

東京科学大学(Science Tokyo) 理学院 化学系の八島正知教授、兼則祐輔大学院生(研究当時)、宇田川英寿大学院生(修士課程2年)、齊藤馨助教、作田祐一特任助教(現 熊本大学 産業ナノマテリアル研究所 助教)、藤井孝太郎助教(現 法政大学生命科学部 准教授)、九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)/大学院工学研究院の石原達己教授ら、英国インペリアル・カレッジ・ロンドン 材料専攻のスキナー・スティーブン教授、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所/J-PARCセンターの森一広教授らの国際共同研究グループは、「Norby gap(ノルビーギャップ)」と呼ばれる温度・イオン伝導度領域において、233℃で10 mS cm-1という世界最高レベルの酸化物イオン伝導度を示す新しいSillénオキシ臭化物Bi1.9Te0.1LaO4.05Brを発見しました(概念図参照)。この材料の伝導度は従来の酸化物イオン伝導体の伝導度だけではなく、低温で高い伝導度を示す代表的なプロトン伝導体のプロトン(H+、水素イオン)伝導度をも上回りました。本研究の特徴は、従来の酸化物を用いた電解質とは異なり、ビスマスを含む高いO2-伝導性三重蛍石類似層を臭化物イオン層でサンドイッチした(挟んだ)Sillénオキシ臭化物を利用した点にあります。この構造により、酸化物イオン伝導性の向上と高い安定性を同時に実現しました。

さらに、中性子回折実験、第一原理計算と第一原理分子動力学(AIMD)シミュレーションを組み合わせることで、この材料では過剰酸素を含むにもかかわらず、酸化物イオンが酸素空孔を介して移動することを明らかにしました。これは、これまで広く受け入れられてきた「過剰酸素を有する酸化物イオン伝導体は準格子間機構で伝導する」という考え方を覆す成果です。この発見は、これまで十分に活用されてこなかった「過剰酸素と酸素空孔の共存」を新たな材料設計の手段として捉えることにつながります。

さらに、この材料は伝導度が高い200~300℃において、強い還元雰囲気から酸化雰囲気で高い電気化学的安定性と化学的安定性、CO2雰囲気下で高い化学的安定性を示す。その上、プロトン伝導体やセリア系材料で問題となる化学膨張も検出されなかった。この材料は低温作動SOFCなど次世代の電気化学デバイスへの応用を可能にするだけでなく、新分野「酸化物イオニクス」と新しい超高速酸化物イオン伝導体の時代を切り開くと期待される。

本研究成果は、2026年10月14日(英国時間)に国際学術誌「Nature Communications」電子版に掲載されました。

本研究の概要図(⼀部を VESTA3 と ChatGPT で作成)。Br 層でイオン伝導性蛍⽯類似層
をサンドイッチし、超⾼速イオン伝導と⾼安定性を実現した。©論⽂の著者(2026)

本研究における中性子回折実験は、主として大強度陽子加速器施設 物質・生命科学実験施設BL08のSuperHRPD(課題番号:2020L0801、2024A0219、2024B0295、2025A0287)およびBL20のiMATERIA(課題番号:2023PM2001、2024PM2001、2025PM2002)により実施しました。

詳細は 東京科学大学 のホームページをご覧ください。

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