国立大学法人 九州大学
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
国立大学法人 筑波大学
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
ポイント
- 転移RNA(tRNA)の機能には前駆体の5’・3’両末端の正確な切断が不可欠だが、一部細菌がどのように高精度な切断を実現しているかは不明であった。
- 5’端の切断を担うと考えられていた小型サイズのリボヌクレアーゼ P(RNase P)酵素が12個集まり6つの突起をもつ星型構造を形成し、突起間に前駆体tRNAを収容することで、前駆体tRNAの5’末端のみならず3’末端の切断にも関わる“二刀流”機能を世界で初めて解明。
- 小型酵素が多量体化を通して、必須機能(5’末端切断)への適応と新機能(3’末端切断)の獲得を果たしたタンパク質の分子進化戦略の一端を解明。
概要
タンパク質合成に必要なtRNAの成熟において、前駆体tRNAの両端(5’末端と3’末端)の正確な切断は必須の過程です。特に5’末端の切断は、多様な形態の酵素が担っていることが知られていました。一部の細菌では、この5’末端切断を小型酵素が担っていることが知られていましたが、どのように進化し小型サイズでその機能を発揮しているのかが明らかではなく、その仕組みの解明が望まれていました。
本研究により、細菌の小型リボヌクレアーゼ P(RNase P)酵素HARPが12個集まって星型構造を形成し(参考図1)、前駆体tRNAの5’末端と3’末端の両方を切断する新たな仕組み(参考図2)を解明しました。
九州大学大学院農学研究院の寺本岳大助教、角田佳充教授、および生物資源環境科学府博士課程3年の児安剛志らの研究グループは、岐阜大学工学部の横川隆志教授、筑波大学生存ダイナミクス研究センターの安達成彦准教授(研究当時 高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所 特任准教授)、九州大学大学院薬学研究院の眞栁浩太講師、KEK物質構造科学研究所の千田俊哉教授らとの共同研究により本研究を行いました。HARPのクライオ電子顕微鏡構造解析(九大グリーンファルマ構造解析センターおよびKEKの装置を使用)を行い、この酵素が12個集まって星型の立体構造を形成し、前駆体tRNAを特異的に認識して、5’末端を正確に切断している様子を明らかにしました。さらに構造・生化学的解析から、この小型酵素が前駆体tRNAの3’端側も切断する「二刀流」の機能を持つことを世界で初めて明らかにしました。
今回の発見は、小型酵素の分子進化戦略の一端を明らかにするだけでなく、標的RNAをtRNA様構造にすることでRNA医療に応用可能な小型RNA切断分子ツールの開発に役立つことが期待されます。今後は、こうした星型構造の形成原理や切断精度の制御原理に関するさらなる解析が望まれます。
本研究成果は、英国の科学雑誌「Nature Communications」に2025年7月1日に掲載されました。

(左)上から見た図 (右)側面から見た図

複数の活性部位を使ってtRNA前駆体の5’末端側と3’末端側を切断する模式図
詳しくは プレスリリース をご参照ください。
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