大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構(KEK)
本研究成果のストーリー
Question
クライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)※1単粒子解析※2法を用いた「構造に基づく創薬デザイン(SBDD)※3」において、実験を行う研究者がこの手法に必須となっている大規模解析計算資源に容易にアクセスできる環境を整備する必要がありました。
Findings
アマゾン ウェブ サービス(AWS)が提供するクラウドコンピューティング※4サービスを活用し、Cryo-EMのデータ解析の各処理ステップを実行できる「GoToCloudプラットフォーム」を開発しました。
Meaning
実験施設もユーザーも自前のハードウェアを維持する必要がなく、必要に応じて動的に計算リソースを調整できるようになりました。また、ユーザーはデータ解析作業にだけ集中できるようになりました。GoToCloudプラットフォームはSBDDを加速する技術基盤となることが期待されます。
タンパク質の立体構造を原子分解能レベルで可視化するクライオ電子顕微鏡単粒子解析法において、実験を行う研究者がデータ解析作業に集中できるよう、アマゾン ウェブ サービス(AWS)のクラウドストレージ上に「GoToCloudプラットフォーム」を開発しました。
※1 クライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)
Cryo-Electron Microscopyの略。生体物質などの真空環境や電子線照射で壊れやすい試料を急速に凍らせて極低温状態に保ったまま撮像できる特殊な透過型電子顕微鏡。
※2 単粒子解析
さまざまな方向から撮像された同一の立体構造を持つタンパク質粒子の二次元透過像を数多く使って、その立体構造を再構築して可視化する手法。測定データであるそれぞれの二次元画像にさまざまな位置や向きで映った各粒子像の三次元投影方向を推定し、これらの推定情報を用いて逆投影を行い、立体構造を再構築します。
※3 構造に基づく創薬デザイン(SBDD)
Structure-Based Drug Designの略。「構造ベース創薬」ともいう。タンパク質分子の立体構造情報を利用して、新しい薬剤候補を設計する手法。このアプローチでは、ターゲットとなるタンパク質の立体構造を基に、最適なリガンド(薬剤分子)を設計し、相互作用を予測することで、より効果的な薬剤を開発します。SBDDは従来の薬剤設計に比べて、薬が必要な部分だけに働いて他の部分には影響を与えないようにする工夫を効率的にできるようになることが期待されています。
※4 クラウドコンピューティング(クラウド)
インターネット経由で遠隔地にあるコンピュータ資源(計算処理能力、ストレージ、ソフトウェアなど)を必要なときに必要な分だけ利用できるサービス。まるで雲(クラウド)からコンピュータを借りているように、いつでもどこからでもアクセスできます。
概要
高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所(IMSS)構造生物学研究センター(SBRC)の千田 俊哉 教授、守屋 俊夫 特任准教授、山田 悠介 研究機関講師らは、タンパク質の立体構造を原子分解能レベルで可視化するのに必要なクライオ電子顕微鏡データの解析と管理を効率的に行うため、アマゾン ウェブ サービス(AWS)のクラウドストレージ上に「GoToCloudプラットフォーム」を開発しました。
研究者からひとこと
KEK 物質構造科学研究所の 守屋 俊夫 特任准教授
AWS上で構築されたGoToCloudを使うと、データ解析の計算がさくさく進み、とても快適です。KEKが所有するそれなりに強力な計算機(GPUカードを4枚搭載)に戻れなくなるくらいです。
努力したところはどこですか
コンピューティングプラットフォームAmazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)やクラスター管理ツールAWS ParallelClusterといったサービスを利用し、セキュリティや課金に必要なアカウント管理、計算クラスターの管理、そして柔軟なデータストレージの効果的な活用を実現しました。
また、シェルスクリプトを独自開発することで、複雑な処理環境の構築とセットアップを自動化して、手順をたった3つに簡略化しました(図右上)。Cryo-EM単粒子解析用のソフトウェアである「RELION(図左下)」の実行形式ファイルは、各処理ステップに最適なハードウェア上で効率よく実行されるものにするために、複数種類準備しました。
さらに、本研究では構築したGoToCloudプラットフォーム上で実行したベンチマーク結果を示し、処理時間とコストに基づいた最適な計算リソース選定に関する指針も提供しました(図右下)。
何がわかったのですか
GoToCloudプロジェクトによって、AWSの協力を受けながらCryo-EM施設が管理用AWSアカウントをセットアップし、解析に必要である多数のデータ処理ソフトウェアを保守し、それを個別のアカウントを持つユーザーに提供することが可能になりました(図左上)。
さらに、このGoToCloudプラットフォームを利用すれば、ユーザーはデータ処理ソフトウェアの保守や最適化などの技術的な側面を気にすることなく、データ解析作業にだけ集中できるようになりました。また、ベンチマークから得られた知見から、実験で得られる大量のデータを非常に効率よく処理できます。
現在、本プロジェクトでは、ユーザーが自身のAWSアカウントにGoToCloudプラットフォームを導入するための支援も行っています。2021年7月以降、学術および産業界の外部ユーザー向けに1~4名の参加者を対象としたGoToCloudハンズオンワークショップを複数回開催しました。既にGoToCloudプラットフォームを1年以上にわたって利用している学術・企業ユーザーがおり、KEKでも試験的な内部運用を始め、本格運用の準備を進めています。
詳しくは プレスリリース をご参照ください。
お問い合わせ先
高エネルギー加速器研究機構(KEK)広報室
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