原子配列の乱れをもつフッ化物イオン導電性固体電解質のイオン伝導メカニズムの解明

リチウムイオン電池を凌駕する次世代蓄電池の創成を目指して

Question

蛍石型構造をもつフッ化カルシウム(CaF2)やフッ化バリウム(BaF2)は、全固体フッ化物電池において重要な高電圧下での利用が期待されますが、その反面、イオン伝導率が低い物質です。CaF2とBaF2を原子レベルで混合することでイオン伝導率が飛躍的に向上することが知られていましたが、CaF2–BaF2系のフッ化物イオン伝導メカニズムについては不明のままでした。

Findings

蓄電池研究用中性子回折装置を利用し、熱プラズマ法で作製したCa0.48Ba0.52F2固体電解質のBa、CaおよびFの原子位置ならびにそれらの核密度分布を精密に決定しました。その結果、異なるイオン半径をもつCaとBaが混合したことで構造歪みを誘発し、それによってFの原子配列が局所的に乱れることがわかりました。さらにフッ化物イオン伝導経路の可視化に成功し、Fの原子配列の乱れが伝導経路内のイオン流れ(イオン伝導率)の向上に大きく寄与していることを明らかにしました。

Meaning

本系のイオン伝導メカニズムの解明によって、フッ化物イオン伝導体のイオン流れに関する理解をより深めることができると考えられます。さらに、本研究成果が、次世代蓄電池(ポスト・リチウムイオン電池)の最有力候補の一つであるフッ化物電池の材料開発に大きく貢献することも期待されます。

図1 Ca0.48Ba0.52F2固体電解質の中をフッ化物イオンが高速で流れていくイメージ図

概要

革新型蓄電池(ポスト・リチウムイオン電池)の開発競争をリードする上で、全固体フッ化物電池(※1)で使用するフッ化物イオン導電性固体電解質は、今後の蓄電池開発において重要なキーマテリアルとなります。高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所(総合研究大学院大学 先端学術院、茨城大学大学院 理工学研究科)森一広 教授、同研究所 ソン スンヨプ 特任助教、齊藤高志 特別准教授、京都大学成長戦略本部 佐藤和之 特定研究員、福永俊晴 研究員、同工学研究科 安部武志 教授、ファインセラミックスセンター 小川貴史 主任研究員、桑原彰秀 主席研究員の共同研究グループは、フッ化物イオン導電性固体電解質Ca0.48Ba0.52F2のイオン伝導メカニズムを原子レベルで解明しました。

蛍石型構造をもつフッ化カルシウム(CaF2)やフッ化バリウム(BaF2)は、全固体フッ化物電池において重要な高電圧下での利用が期待されますが、その反面、イオン伝導率(※2)が低い物質です。CaF2とBaF2を原子レベルで混合することで、イオン伝導率が飛躍的に向上することが知られていましたが、CaF2–BaF2系のフッ化物イオン(F)の分布やその伝導メカニズムは不明のままでした。

本研究では、熱プラズマ法(※3)で作製したCa0.48Ba0.52F2固体電解質を用いて中性子回折実験(※4)を行い、本系の原子配列と核密度分布を精密に決定しました。その結果、異なるイオン半径をもつCaとBaが混合したことで構造歪みを誘発し、それによってFの原子配列が局所的に乱れることがわかりました。さらにフッ化物イオン伝導経路の可視化に成功し、Fの原子配列の乱れが伝導経路内のイオン流れ(イオン伝導率)の向上に大きく寄与していることを明らかにしました。

1.フッ化物電池
マイナスのフッ化物イオン(F)が正極と負極の間を移動して充放電する蓄電池。

※2.イオン伝導率
抵抗率の逆数で、物質中でのイオンの流れやすさを表す。単位はS/cm(S:ジーメンス)。

※3.熱プラズマ法
熱プラズマがもつ非常に反応性が高い状態を利用し、従来にはない形態、結晶構造、化学組成の材料を合成する手法。

※4.中性子回折実験
中性子による回折現象を利用し、原子配列を観察する実験手法。特に、軽元素(水素、リチウム、フッ素、酸素、等)に敏感であることが大きな利点である。

本研究成果は、2024年9月5日(米国時間)に、米国化学会(ACS)発行のエネルギー材料科学の専門誌「ACS Applied Energy Materials」のオンライン版に掲載されました。

KEK 物質構造科学研究所 の 森一広 教授

中性子の“目”を通じて物質内部の原子配列を見ることができます。中性子は、特にフッ素や水素、リチウムなどの軽元素の観察に適しています。リチウムイオン電池や次世代蓄電池では、主役である軽元素(イオン)の動きが電池特性に大きく影響します。中性子の利用によって蓄電池研究・開発がより一層加速するよう日々努力しています。

京都大学 成長戦略本部 の 佐藤和之 特定研究員

固体電解質のイオン伝導性向上はこの電池系の大きな課題の一つです。熱プラズマ法で作製したCaF2-BaF2は不純物相が非常に少ないため、イオン伝導機構についての詳細な解析を進めることができました。今後、この解析をもとにさらなる研究を重ねて新たな材料の創出につなげていきたいと思います。

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