大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
本研究成果のストーリー
Question
化石燃料を使わずにつくるクリーンな水素が求められています。光触媒を使い、太陽光で水を直接分解する水素の製法が期待されますが、効率が低いのが課題でした。 水の分解では水素だけでなく、酸素も同時に発生しますが、実は、酸素発生電極の性能が水素発生のボトルネックになっており、反応過程にもわからないところが多くあります。
Findings
酸素発生電極で起きる反応過程を直接観察できる手法「波長分散型(エネルギー一括測定型)軟X線吸収分光法」を世界で初めて開発しました。一瞬の測定で広い範囲の波長にわたったデータ取得ができるので、反応中のリアルタイム測定が可能です。
Meaning
この測定方法は、光触媒や電気化学反応の観察に広く応用できます。水素燃料を活用した社会のカーボンニュートラル化をはじめとする社会課題の解決に向けた材料開発への貢献が期待されます。
水分解用の光触媒電極の、酸素発生反応に着目して、電位をスキャンしながらリアルタイムで酸素を含む化学種の観察を行いました。光を照射した場合と照射しない場合での違いを比較し、電極/溶液界面での反応中間体について観察を行うことができました。
概要
太陽光を用いて水を水素と酸素に分解できる半導体光触媒は、生成した水素をエネルギーとして使用できるため、環境負荷の低い次世代エネルギー源の一つです。この半導体光触媒はp型半導体材料でできた水素発生電極とn型半導体材料でできた酸素発生電極を組み合わせてデバイスとして用いられています。酸素発生電極は水素発生電極に比べ、性能のボトルネックになっているため、システム全体の性能向上のために、酸素発生電極の性能向上が必須となっています。
一方で、電極上での酸素発生の反応過程には未だ不明点が多くあります。特に、光触媒による水分解反応は固液界面での反応を扱うため、この固液界面でどのような化学種が生成し、どのように反応が進行するかがデバイスの特性を左右すると考えられます。
今回は、モデル触媒として、本多・藤嶋効果※1で知られる酸化チタンに着目し、波長分散型(エネルギー一括測定型)軟X線吸収分光法※2を用いることで、酸化チタンの固液界面における化学反応(酸素発生反応)を観察しました。この手法を用いると、さまざまなエネルギーを持つ軟X線の吸収の大きさを一度に測定することができるため、化学反応中に現れる化学種の時間変化をリアルタイム観察することが可能です。
軟X線吸収分光法は金属酸化物半導体の表面・界面における化学種やその電子状態を観察できる強力な手法です。電位をスキャンしながら(または、UV光や可視光を照射しながら)固液界面の触媒反応時の電極/電解質溶液界面に生じる化学種をリアルタイムかつオペランド測定※3することで、触媒電極表面近傍に吸着した中間体や発生した酸素を観察することができました。
※1.本多・藤嶋効果
二酸化チタンの電極と白金電極を水中に置き二酸化チタン電極に紫外光を照射すると、水が分解し、二酸化チタン電極から酸素、白金電極から水素が発生する現象。この現象は、発見者の本多健一氏と藤嶋昭氏の名前をとって「本多・藤嶋効果」と呼ばれている。
※2.波長分散型(エネルギー一括測定型)軟X線吸収分光法
測定したい表面に、位置によって波長(光のエネルギーと反比例)が少しずつ変化する軟X線(波長分散した軟X線)を照射し、それぞれの位置で吸収された軟X線に応じて放出された蛍光X線を、別々にとりこむことによって、一度にさまざまな波長に対する吸収の大きさ(スペクトル)を得る方法です。一般的なX線吸収分光は、サンプルに照射するX線のエネルギーを一点一点変えながらスペクトルを取得していきますが、波長分散型ではワンショットでスペクトルの取得ができるのでリアルタイム観察を行うことが可能になりました。
※3.オペランド測定
実際の使用環境や動作環境下で、デバイスや材料の物理・化学的な動的現象(時間に伴い変化する現象)の仕組みを解明することを目的とした測定のこと。
KEK の阪田 薫穂(さかた かおるほ)准教授
光触媒や電極触媒の表面は、動作中は溶液の中にあるので、どのように反応が起こっているかは、これまでにあまり知られていませんでした。私たちのグループで開発した手法は、反応中間体が観察できる可能性がある画期的な手法です。
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