素粒子ミュオンで半導体材料における水素の挙動を解明

〜次世代不揮発性メモリー開発に期待~

VO2のμSR時間スペクトル(摂氏-265℃~110℃の範囲で測定)と結晶構造(高温相)

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
国立大学法人 東北大学
国立大学法人 茨城大学
J-PARCセンター

Question

半導体は不純物に大きく影響され、リンやホウ素を微量添加することで機能を制御できます。水素も不純物の一つで、次世代メモリー材料として期待される二酸化バナジウム(VO2)では、その機能のカギである電気抵抗の変化は内部の水素の挙動が関係することがわかっていますが、具体的な動きや影響はよくわかっていませんでした。

Findings

素粒子「ミュオン」(正のミュオン)は物質中で水素原子のように振る舞い、擬水素(ミュオジェン)とも呼ばれます。これを用いることで、VO2中の水素の拡散運動を解明しました。水素はVO2中で2種類の拡散経路を持ち、そのうちの一つは半導体素子に適した高い拡散係数を示すことを発見しました。

Meaning

本研究から得られた情報を活用することで、高密度の抵抗変化型記憶素子の開発につながる可能性があります。また、VO2は水素によって動作するという従来の素子とは異なる制御方式であるため、これまでにない用途への活用も期待されます。

概要

半導体の電気特性は材料中に存在する不純物の量に左右されることが知られています。例えば純度の高いシリコンはほとんど電気を通しませんが、微量のリンやホウ素を添加すると電気抵抗が下がり、半導体として機能します。同様に半導体中に存在する不純物としての水素の量によって電気抵抗を変化させることができ、その性質をうまく使えば抵抗変化型のデバイスをつくれます。

しかし、その水素の振る舞いをナノスケールで調べる方法は極めて限られています。我々は次世代半導体デバイス材料として注目を集める二酸化バナジウム(VO2)に対して、物質中で水素のように振舞う素粒子「ミュオン」を用いることで、ナノスケール領域における水素の挙動(ダイナミクス)を明らかにしました。大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)のミュオン科学実験施設(MUSE)Sラインにおいて行われたミュオンスピン回転/緩和/共鳴(μSR)実験により、水素はVO2中で2種類の拡散経路を持つこと、室温で10-10cm2/sもの高い拡散係数を示すポテンシャルを秘めていることを発見しました。これは半導体中の水素の量をわずかな電圧の変化で制御できることを意味し、VO2を用いた次世代水素駆動型半導体電子デバイスの開発に資するものです。本論文は米国科学誌「Physical Review Materials」の注目論文(Editors’ Suggestion)に選ばれました。

研究グループ

東北大学 金属材料研究所 量子ビーム金属物理学研究部門 岡部博孝 特任助教
茨城大学大学院 理工学研究科(理学野) 平石雅俊 研究員
KEK 物質構造科学研究所 ミュオン科学研究系 幸田章宏 教授
KEK 物質構造科学研究所 ミュオン科学研究系 門野良典 特別教授
物質・材料研究機構 技術開発・共用部門 松下能孝 ユニットリーダー
物質・材料研究機構 電子・光機能材料研究センター 大澤 健男 主幹研究員
物質・材料研究機構 電子・光機能材料研究センター 大橋 直樹 センター長

お問い合わせ先

高エネルギー加速器研究機構(KEK)広報室
Tel : 029-879-6047
e-mail : press@kek.jp

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