本研究で得られた有機導電性高分子の分子構造の評価結果
(a)導電性高分子の偏光顕微鏡観察により確認された、らせん構造をもつコレステリック液晶に特有な指紋状模様
(b)シンクロトロン放射光XRDの結果から推定される分子構造
国立大学法人筑波大学
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
免疫抑制剤シクロスポリンAをらせん誘起物質として用い、極めて高い光学活性をもつらせん磁気活性導電性高分子を合成しました。この導電性高分子は、磁場に対して同方向または反対方向で円偏光の吸収の差異を示しました。
概要
近年、半導体分野においては、磁場を担うスピン(電子の自転)を制御することで電子機器の制御を行うなど、通信を担う技術としてスピントロニクスへの期待が高まっています。しかしながら、研究の多くは無機磁性体を対象としており、導電性高分子を基盤とした有機エレクトロニクス分野においては、スピントロニクスの研究はほとんどなされていません。本研究グループは1990年代後半よりトポロジー的な磁性の研究を進め、半導体分野のスピントロニクスに資する物質として、新規有機磁性体をいくつか報告してきました。
本研究では、これまでの有機磁性体(らせん導電性高分子)の開発の知見に基づき、らせん磁気活性導電性高分子の開発に成功しました。これにあたって、医療分野で移植手術や免疫不全に対する重要な薬剤であるシクロスポリンAを用いることを着想しました。シクロスポリンAは天然の菌類より抽出され、大きならせん誘起力をもつために、これを用いて合成した導電性高分子は極めて高いらせん構造を有すると考えられます。得られた導電性高分子について、シンクロトロン放射光により微細構造を調べたところ、シクロスポリンAと同様のらせん構造を有していることが分かりました。また、マイクロ波領域で電子スピン活性を示し、磁場方向に対する異方性が認められました。このような性質は有機高分子では初めてであり、ポリマースピントロニクスの第一歩となるものです。
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