東京工業大学
高エネルギー加速器研究機構
東京大学
J-PARCセンター
概要
東京工業大学科学技術創成研究院全固体電池研究センターの堀智特任准教授、菅野了次特命教授、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の齊藤高志特別准教授、東京大学 生産技術研究所の溝口照康教授らの研究グループは、伝導率が世界最高の固体電解質の超リチウム(Li)イオン伝導体を開発した。従来、全固体電池の固体電解質の伝導率が低いと正極の厚みを増して、容量を増やすことが困難であったが、新しい電解質を応用することにより1mm膜厚の正極を開発し、全固体電池の特性を飛躍的に向上させることに成功した。
研究グループは、従来のLiイオン伝導体(27℃で12mScm−1)の化学組成を高エントロピー化することで、32mScm−1まで伝導率を高めた新材料を開発した。この新材料を固体電解質に用いることで、室温25℃で理論値の約90%のエネルギーが取り出せる厚み1mmの電極(正極)が実現した。電極面積あたりの容量は25mAhcm−2を超え、これまでの全固体電池セルの最高値の1.8倍となった。また新材料の結晶構造を、大強度陽子加速器施設J-PARCでの中性子回折によって解析し、不規則な元素配列があることを明らかにした。解析結果を基に計算モデルを作成し、第一原理計算を用いてLiイオン伝導機構を解析したところ、元素配列に依存してLiイオン伝導の障壁が半分に低下して平滑になり、イオンが伝導しやすくなることが判明した。さらに新材料を用いた厚膜正極を、次世代電池材料であるLi金属負極と組み合わせ、Li金属負極が活性化する60℃において10mAcm−2を超える電流値で20mAhcm−2以上の容量が取り出せる全固体電池セルが実現した。
イオン伝導性の高い固体電解質を用いることで、これまでにない電池形態が達成できることを示した今回の成果は、電気自動車やスマートグリッドの成功の鍵を握る次世代の蓄電デバイスに新たな指針をもたらすものである。
本研究成果は、2023年7月6日(現地時間)に米国科学誌「Science」に掲載された。
本研究成果のポイント
- 伝導率が世界最高の固体電解質の超リチウムイオン伝導体を開発。
- 開発した材料を用いて電極面積あたりの容量が現行の1.8倍の厚膜正極を作製し、優れた電池特性を実証。
- 開発した厚膜正極と次世代電池材料として注目されているリチウム金属負極を利用して、大容量・大電流特性を示す全固体電池を実現。
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