溶質と溶媒が相互に影響し合う機構を原子レベルで直接観測 - 光化学反応における溶質と溶媒和の構造変化を100兆分の1秒単位で追跡 -

高輝度光科学研究センター
理化学研究所
高エネルギー加速器研究機構

概要

高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室の片山哲夫主幹研究員、理化学研究所放射光科学研究センター利用システム開発研究部門SACLAビームライン基盤グループの矢橋牧名グループディレクター(高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室室長)、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所の野澤俊介准教授、同機構の足立伸一理事、ヨーロピアンXFEL(ドイツ)のクリストファー・ミルネグループリーダー、ハンガリー科学アカデミー(ハンガリー)のジョージ・バンコ教授、ニューキャッスル大学(イングランド)のトーマス・ペンフォールド教授、マドリード自治大学(スペイン)のボチェック・ガウェルダ教授、アイスランド大学(アイスランド)のジャンルカ・レヴィ研究員らによる共同研究グループは光を吸収した溶質分子とその周りを囲う溶媒分子がお互いに影響し合いながら光化学反応が進行するメカニズムを原子レベルで解明することに成功しました。

溶液中では、反応する分子(溶質分子)の周りは常に溶媒分子に囲われており、溶媒の種類によって化学反応のスピード、反応中間体の寿命、生成物の種類や収率が変わることが知られています(溶媒和効果)。しかし、溶媒分子がどのように溶質分子の構造変化や化学反応を促したり抑制したりするのか、その様子を直接観測することはこれまでできませんでした。
本研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAのBL3を使い、光を吸収した金属錯体(溶質分子)とアセトニトリル(溶媒分子)の構造変化を正確に追跡しました。その結果、溶質分子の動きが周囲の溶媒分子の再配置を促すだけでなく、溶媒の再配置によって溶質の動きが駆動されることが分かりました。すなわち、溶質分子と溶媒分子の間の影響が双方向的であることを原子の動きとして捉えることに初めて成功しました。

この研究は、溶質と溶媒の構造変化を観測する分子動画を実現したものであり、光化学反応における溶媒和効果の機構の解明に貢献することが期待されます。またこの研究は、2019年に科学雑誌Nature Communications誌に掲載された同研究グループによる研究成果の続編になります。

本成果は科学雑誌Chemical Science誌のオンライン版に掲載されました。

本研究成果のポイント

本研究では、より広範囲まで原子位置の変化を精密に可視化できる時間分解X線溶液散乱と時間分解X線発光分光を相補的に組み合わせることで、この課題に取り組みました。その結果、金属錯体(溶質分子)とアセトニトリル(溶媒分子)のそれぞれの構造変化を原子の位置情報として直接観測することに成功しました。

光を吸収した溶質分子は不安定な構造(正四面体型)から安定な構造(平面型)へと平坦化し、振動します。平坦化すると配位子の間の空間が広がるため、溶媒分子がそのスペースに入り込み、中心の銅原子に近づく様子が観測されました。この過程は溶質分子の形状の変化が周囲の溶媒の再配置を駆動していると理解できます(溶質分子→溶媒分子)。光をあてた直後はこのような一方向的な相互作用が支配的ですが、しばらく時間が経つと逆方向の相互作用(溶媒分子→溶質分子)の影響が観測されました。すなわち、溶媒の入り込む動きによって溶質分子の振動が減衰し、更なる平坦化が進行することが分かりました。本研究により、溶質分子と溶媒分子の双方向的な相互作用を原子の動きとして説明することが初めて可能になりました。

問合せ先

高エネルギー加速器研究機構(KEK)広報室
Tel: 029-879-6047
e-mail: press@kek.jp
詳しくは  レスリリース  をご参照ください。