半導体中の中性水素状態の謎を解明 -実験と理論との有機的な協働による材料中の水素の詳細な理解へ期待-

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター

概 要

半導体中の水素は、数ppmというわずかな量でも材料の電気特性を大きく左右する重要な不純物欠陥であり、そのメカニズム解明のためには、材料中での水素のイオン化を理解することが不可欠である。ところが水素は理論上、熱平衡状態で正イオン、負イオンいずれか一方の状態しか取れないことが予想される一方で、実験的には多くの材料中で中性状態が確認されており、この不一致は格子欠陥の物理における数十年来の根本的な謎であった。

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 ミュオン科学研究系の門野良典特別教授、平石雅俊特任助教(当時)、岡部博孝特任助教(当時)、幸田章宏准教授、および東京工業大学の細野秀雄特命教授らの研究グループは、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)の汎用µSR実験装置(ARTEMIS)を用いた研究を含む、過去半世紀にわたり蓄積された酸化物半導体中のミュオン(=水素の同位体とみなせる)の研究結果を精査することにより、このような中性状態が正イオン状態と対になって観測される、というこれまで見過ごされてきた事実に注目し、両者を理論的に予想される準安定なアクセプター状態とドナー状態の対に対応すると解釈することで、ほぼ全ての実験結果を体系的に説明できるモデルを構築することに成功した。これにより、実験と理論との有機的な協働による材料中の水素の詳細な理解への道が開かれた。

この研究成果は、米国科学雑誌Journal of Applied Physicsに9月14日掲載(オンライン公開)された。

本研究成果のポイント

○半導体材料中に広く存在する水素は、わずかな量でも材料の電気特性を大きく左右する重要な不純物欠陥。
○酸化物半導体中のミュオン(=擬水素)研究の結果を精査することにより、これまで謎だった電気的に中性な状態も含め、全ての水素のイオン化状態についての実験結果を説明できるモデルを構築することに成功した。
○実験と理論との有機的な協働による材料中の水素の詳細な理解へつながると期待。

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