世界最高効率のスピン流電流変換を酸化物で実現 ―酸化物を用いた低消費電力スピンデバイスの実現に向けた新たな進展―

東京大学大学院工学系研究科
高エネルギー加速器研究機構

概要

東京大学大学院工学系研究科の金田(髙田)真悟大学院生、Le Duc Anh准教授、小林正起准教授、関宗俊准教授、田畑仁教授、田中雅明教授、大矢忍准教授のグループと、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の北村未歩助教、堀場弘司准教授(現量子科学技術研究開発機構次世代放射光施設整備開発センター上席研究員)、東北大学多元物質科学研究所の組頭広志教授らは、強相関電子系酸化物LaTiO3と酸化物SrTiO3基板との界面に形成される2次元電子ガスに純スピン流を注入し、世界最大効率のスピン流電流変換を実現することに成功しました。
研究グループは、分子線エピタキシーと呼ばれる手法を用いて、1原子層ごとに結晶成長を行って高品質のLaTiO3/SrTiO3の単結晶界面を作製し、スピン流が流れる際のスピン散乱を大幅に抑制しました。その結果、これまでに報告された最大値と比べて3倍以上の大きなスピン流電流変換を実現することに成功しました。また、KEK放射光実験施設フォトンファクトリーで共鳴角度分解光電子分光法を用いてLaTiO3/SrTiO3界面に形成された2次元電子ガスのTi 3d軌道由来の電子構造を観測し、その結果に基づいて理論計算を行うことで、スピン流電流変換効率の温度依存性を理論的に説明することに成功しました。本研究の結果は、高品質の単結晶界面や強相関電子材料を利用することにより、高効率のスピン流電流変換が実現できることを示しています。将来的には、次世代の磁性を用いた不揮発性メモリの実現に向けた、より高効率の磁化反転技術の実現に結びつくものと期待されます。

本研究成果は、2022年9月26日(英国夏時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。

本研究成果のポイント

○電子のスピン自由度と軌道自由度を生かした次世代のデバイスの実現に向けて、近年さまざまな材料系で観測されている電流とスピン流間の相互変換現象は、高効率の磁化制御技術に応用できるものとして期待されています。本研究では、高品質の単結晶酸化物界面に形成された2次元電子ガスを用いて、世界最高効率のスピン流電流変換を実現することに成功しました。
○ 今までは、絶縁体の酸化物同士の界面に形成される2次元電子ガスを用いて研究が行われてきましたが、スピン流を2次元電子ガスに注入する際に、スピン流が絶縁体で減衰してしまうことが問題でした。本研究では、金属状態の強相関電子系酸化物LaTiO3を用いることにより、高効率のスピン注入を実現しました。
○本結果は、高品質の単結晶界面や強相関電子材料を利用することにより、高効率のスピン流電流変換が実現できることを示しています。将来的には、磁性を用いた次世代の不揮発性メモリの実現に向けた、より高効率の磁化反転技術の実現に結びつくものと期待されます。

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