正負のミュオンで捉えた全固体リチウム電池負極材料のリチウム移動現象

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター
一般財団法人 総合科学研究機構
国立大学法人 茨城大学
国立大学法人 大阪大学
学校法人 国際基督教大学

概要

高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の梅垣いづみ助教は、同、西村昇一郎特別助教、竹下聡史助教、幸田章宏准教授、総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センターの大石一城副主任研究員、杉山純サイエンスコーディネータ、茨城大学の中野岳仁准教授、大阪大学放射線科学基盤機構の二宮和彦准教授、国際基督教大学の久保謙哉教授と共同で、全固体リチウム(Li)電池の負極材料として研究されているスピネル構造のLi4Ti5O12中のLiイオンの拡散運動を、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)の世界最高強度の正と負の2種類のミュオンビームを使ったミュオンスピン回転緩和(μSR)法により調べた。µSR法は、Liイオンの拡散運動に伴う内部磁場の微妙な変動を捉えることができ、正ミュオンを使った場合はスピネル格子内の酸素近傍にある空隙位置の内部磁場情報を、負ミュオンを使った場合は酸素位置の内部磁場情報が得られる。正負の2種類のミュオンで捉えた内部磁場の変動は一致し、これは負極材料中でLiイオン拡散が起きていることを明示した。拡散の活性化エネルギーはかなり小さいことが分かり、これは負極材料として優れた物質であることを示している。正負2種類のミュオンを使ってリチウムの拡散を調べるこの手法により、今後さらに電池の研究を推進できると期待される。

この研究成果は、米国化学会(ACS)が発行する「The Journal of Physical Chemistry C」に6月17日にオンライン出版された。

本研究成果のポイント

○次世代電池として開発が進められている全固体電池の負極材料候補Li4Ti5O12中のイオン拡散現象をJ-PARCの大強度ビームを用いたミュオンスピン回転緩和(μSR)法により調べた。

○正ミュオンと負ミュオンを使った二つのμSR実験により、負極材料内のリチウムイオンの拡散を明確に捉えた。

○今後、動作中の電池においてもリチウムイオンの拡散を調べていく予定。

詳しくは  プレスリリース  をご参照ください。