概要
電子のもつ電気的な性質(電荷)と磁気的な性質(スピン)を同時に利用することによって磁石の状態を電気的に操作する技術は、現代のエレクトロニクスを大きく発展させる要素として注目されています。特に近年発見されたトポロジカル絶縁体は、その表面状態における高効率・省電力なスピン操作が可能であるため、有望な物質基盤になると期待されています。一方で、トポロジカル絶縁体をはじめとした既存の候補物質は重元素の含有を必要とし、材料の観点からは希少性や毒性といった点で課題がありました。
東京大学大学院工学系研究科の大塚悠介大学院生(当時)、金澤直也講師、平山元昭特任准教授、理化学研究所創発物性科学研究センターの十倉好紀センター長らを中心とする研究グループは、東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授、藤原宏平准教授らの研究グループと共同で、地球上に豊富に存在する鉄(Fe)とシリコン(Si)から成る化合物FeSiにおける新しいトポロジカル表面状態を発見し、強いスピン軌道相互作用に由来したスピントロニクス機能を実現しました。また東京大学物性研究所の中島多朗准教授、総合科学研究機構中性子科学センターの花島隆泰研究員、日本原子力研究開発機構J-PARCセンター/高エネルギー加速器研究機構の青木裕之特別教授と共同で、FeSi表面における強磁性スピン状態を直接観測しました。
今回の発見によって、希少元素化合物において開拓されてきたトポロジカル物性やスピン操作機能を、ありふれた元素の化合物でも実現可能であることが明らかにされました。つまり、資源の制約や環境負荷を抑えつつ、電子デバイスの省電力化や高機能化を大きく進展させる可能性があり、情報化社会の持続的発展を支える物質基盤の確立に貢献することが期待されます。
この研究成果は、11月17日(アメリカ東部時間) Science Advances に掲載されました。
(DOI:10.1126/sciadv.abj0498)
本研究成果のポイント
◆地球上に豊富に存在する鉄(Fe)とシリコン(Si)から成る化合物FeSiにおいて強いスピン軌道相互作用を示す表面状態が現れることを発見し、その表面状態を用いてスピントロニクス機能を実現しました。
◆FeSiの表面状態の特徴が結晶内部の電子状態のトポロジーに由来していて、現代の電気分極理論で用いられる幾何学的位相の概念に関連していることを解明しました。
◆従来あまり注目されてこなかったありふれた元素の化合物に潜むトポロジカル物性・スピントロニクス機能の開拓指針となり、情報化社会の持続的発展を支える物質基盤の確立に繋がる可能性があります
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