逆転の発想「ラビ振動分光」でミュオニウム原子を精密に測定

逆転の発想「ラビ振動分光」でミュオニウム原子を精密に測定
左図:理論的シミュレーションで得られた共鳴曲線。右図:ラビ振動分光を理論的に計算したシミュレーション。

東京大学大学院理学系研究科
東京大学大学院総合文化研究科
高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター
九州大学

概要

原子分光は構成粒子の性質を精密に調べる有力な手段です。レーザーなど電磁波の周波数を少しずつ変え(掃引)ながら共鳴のピークを探し、共鳴曲線を描いて中心となる周波数を求めるのが普通ですが、途中で電磁波のパワーなどの条件が変動すれば、たちまち精度が悪くなってしまいます。東京大学大学院理学系研究科の鳥居寛之准教授、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の西村昇一郎博士研究員および下村浩一郎教授らの研究グループは、周波数掃引が不要の画期的な原子分光法を編み出しました。固定した周波数に対する時間応答が、共鳴の中心周波数からのずれ(離調)に依存して特徴的な振動を示すことを利用して、共鳴中心を逆算して求める手法で、これをラビ振動分光と名付けました。従来の分光法より精度が高く、特に短寿命の不安定な素粒子や原子核を含む原子に効果的だと期待されます。今回の実験ではこの分光法を、水素に似たミュオニウム原子に適用して、その超微細構造をマイクロ波で精密に測定することに成功しました。これにより、素粒子ミュオン(ミュー粒子)の質量を高精度で決定して、量子電磁力学(QED)をはじめとする素粒子物理学の標準模型を検証することができます。

本成果は8月10日(火)0:00(日本時間)、『Physical Review A』にオンライン掲載されました。

本研究成果のポイント

◆たった1つの周波数に対する時間応答から共鳴周波数を求められる新しい原子分光法「ラビ振動分光」を編み出し、ミュオニウム原子の超微細構造を精密に決定することに成功した
◆共鳴信号を周波数軸に変換せず、時間軸のまま、理論的なラビ振動のシミュレーションと比較し、逆問題として共鳴周波数を求める逆転の発想を実現した
◆ミュオニウム原子のマイクロ波分光は、今後高強度ビームラインで強磁場を使った実験へと発展し、ラビ振動分光法は素粒子物理学を検証するための世界最高精度の鍵を握る

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