2019年 年頭のご挨拶

   

KEKつくばキャンパス小林ホールで年頭挨拶を行う山内機構長

新年あけましておめでとうございます。 新しい年がKEKと職員の皆さんにとって輝かしい年になることをお祈りします。 今年は平成が終わり、新しい年号がスタートする年ですが、KEKにも新しい時代が始まろうとしていることを実感していますので、ここではそのことを中心にお話ししたいと思っています。 最近の数年間はいくつかの点で薄暗いトンネルの中を走り続けてきたという印象がぬぐえない時代が続きましたが、昨年になってようやく向こうに明かりが少し見えてきたと実感しています。 これは研究を進めると言う点とKEKの在り方をどうしてゆくかという両面についてであります。

まず研究計画についてでありますが、KEKでは東大と一緒に進めるハイパーカミオカンデ計画とCERNにおけるHL-LHC(ハイ・ルミノシティLHC)への参画を優先計画としています。 これらは文科省の大型研究計画ロードマップ2017に取り上げられ、文科省が昨年大型フロンティア事業に関して、新しい研究計画を積極的に動かして行くという新しい方針を打ち出したおかげで進展を見ました。 HL-LHCは来年度に正式に予算化されることになりました。 今後予定通りの完結を目指したいと思います。 ハイパーカミオカはその予算規模が大きいことから来年度からの実施とはなりませんでしたが、東大の計画として文科省による検討が続いており、実現に向けて今年が正念場であろうと考えています。

このようにKEKが優先順位が高いとした計画2件が動き始めたので、次の優先計画とされているミュオンg-2とハドロンホールの拡張に取り組む時期が予想よりもだいぶ早く訪れました。 昨年、文科省の方針もあって新しい研究計画が進み始めたのは非常に大きな変化です。 この変化に貪欲に食らいついてKEKの研究計画を少しでも前に進められるよう皆さんとともに努力していきたいと思います。

一方、この流れの中で大変気がかりなのが放射光施設の将来計画です。 放射光では東北放射光計画が進みつつあるなかで学術のための新しい放射光施設を、という主張が通りにくくなっているのは事実です。 東北放射光計画が進行中の期間とそれが完成したタイミングでどのような計画を打ち出すか関係者の皆さんの間で至急議論を深める必要があります。

昨年は現在KEKで進行中のプロジェクトの予算においても明らかな変化が起こっています。 これもやはり、文科省が大型フロンティア事業の新しい方針として新しいものを動かすという方針を掲げたことに関連しています。 その結果、予算配分にメリハリがつき、KEKではSuperKEKB、J-PARCメインリング電源とHL-LHCに優先して予算が配分されました。 一方、放射光とJ-PARCの運転に関しては想像以上の厳しい査定となりました。 来年度以降の運転計画をどうするか、大胆な発想の転換を含めた知恵が必要です。 関連する皆さんとよく相談しながら来年度の計画を練っていきたいと考えています。

プロジェクト予算に関連して皆さんにもぜひ理解していただきたいことがあります。 定常的な運転を長期にわたって続けることで施設を大学共同利用に供し、成果も生まれるというのがKEKのスタイルのひとつでしたが、ある程度継続したら成果を出して、次に移行するというパターンが求められているということです。 この時の成果というところで淘汰が起こって、良い結果を出したものは次に行けるが、そうではないものはそこでおしまいになるという、そういうものでなければ社会の理解が得にくくなっているということです。 特に放射光においては運転開始以来35年にわたる研究成果を評価しなおし、今後どういう設備によってどのような成果を狙っていくのか大きな戦略が求められています。 J-PARCにおいても大きな戦略が求められますが、ハイパーカミオカンデを目指すニュートリノ実験の一方、MLF、ハドロンホールにおける研究があるので特に賢明な戦略が必要です。

将来計画でもう一つ大きく動いているのが国際リニアコライダー、ILCです。 これはKEKの計画というより世界の高エネルギー物理学コミュニティが将来計画として強く推しているもので、KEKはホスト国の中心機関として政府文科省の手助けをしつつ推進を図っているものです。 昨年夏には文科省に設置されたILC有識者会議が結論を出し、その後学術会議による検討が続けられてきましたが、年末にその答申が出されました。 マスコミにも取り上げられましたのでご存知の方も多いと思いますが、学術的価値は認めるが「現状では支持するに至らない」という内容でした。 ここで指摘された事項は重く受け止めて今後に生かしていきたいと考えています。 ただ、政府にお願いしているのは最終決定ではなく、国際協議を開始することです。 このための次の段階は政府の方針表明で、3月初旬までに行われるものと期待しています。 ここで前向きな方針が得られるよう活動を強化していきたいと思っているところです。 このILCに関しても閉塞感が否定できない状況から物事が動き出した感じがありまして、トンネルに出口が見えだしたという感覚を強く持っています。

大きな変化が起こっているのは研究計画だけではありません。 国立大学をめぐる大きな改革のうねりが起こっているのは皆さん報道などでご存じと思いますが、大学共同利用機関法人は大学と横並びの組織としてどのように変わるべきかという大きな議論も同時に起こっています。 特に日本の科学研究における地盤沈下が顕著であり、日本の経済がまた右肩上がりに戻ることがほとんど期待できない今、大学共同利用機関法人はどのようにして日本の科学研究の牽引役を果すことができるかが大きなテーマになっています。

こういった議論の中では4つの大学共同利用機関法人を統合する方向性も議論の対象になりましたが、KEKはそれには反対の立場をとってきました。 文科省の審議会の一つである研究環境基盤部会で7か月に及ぶ議論の結果、4機構法人を統合するのではなく、主に2つの改革をおこなうことで決着しました。 ひとつは連合体という奇妙な仮称で呼んでいますが、新しく4機構と総研大からなる一般社団法人を設け、機構の業務で共通化できる部分を共通化するなどして効率化を図ろうとするものです。 もうひとつは大学共同利用機関法人をもっと動的なものにして行こうと言うものです。

これには大学共同利用機関の改廃・統合を含めた見直しを6年ごとに行うと言うことと、大学の付属研究所と大学共同利用機関の相互の移行の制度、条件を明確にしたということです。 これらによって大学共同利用機関は一度できたら未来永劫そのままではなく、ダイナミックに変化する制度を作ったということです。 この動的な大学共同利用機関の制度は先ほどお話ししました研究計画の淘汰ということと同時に、変化と淘汰によって進化を図ろうと言う、いわば生物の進化のようなことを実現しようとするものと肯定的に受け止めています。

大学共同利用機関法人の改革に関する結論はこのようなものですが、この議論の過程で私は多くのことを学んだと考えています。 一つは大学共同利用機関法人に対する期待の高さです。 特に地盤沈下の対策として活用できるものとして強化したいとの思いはあちこちにあります。 大学からは研究力や国際協力などの機能を飛躍的に伸ばすための手段として役立てたいと言う強い希望があります。 このような期待に応えていける大学共同利用機関法人を実現しなければならないという思いを強くしています。 二つ目は社会のメンバーとしての役割についてです。 Society5.0に貢献できる人材育成や産業に貢献できる成果創出をすすめることなどは我々がもっと力を入れていく必要がありそうです。 KEKは学術研究に軸足を置きながらどうこれらに対応していくかが課題です。 さらに、これらを進めるために最適な組織が大学共同利用機関法人なのかどうかももう一度考える必要があると考えています。

ここに述べましたようにKEKが進むべき道が少しずつ見えてきたことは大変大きいと感じていますが、これは同時にKEKが大きな変化を乗り越えていかなければならないことを意味します。 変化は個人にとっても組織にとってもストレスであることは避けられません。 環境の変化+突然変異+適者生存の繰り返しが生物の進化であるように我々もこれを飛躍の機会と捉えて適切に対応すべきと考えます。 KEKの職員の皆さん全員がそれぞれの立場で人類の知的探究を最前線で担っている、支えていることに誇りを持っていただいて、今年一年前進していただくようお願いします。 私も理事の皆さんと共にそれを支えるべく最大限の努力を行って参ります。

機構長 山内正則

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