【KEKエッセイ #48】ああ、海外出張‥

帰国便に乗り損ねて思いがけず実現したイスタンブール市内観光(撮影:瀬戸秀紀)
帰国便に乗り損ねて思いがけず実現したイスタンブール市内観光(撮影:瀬戸秀紀)
新型コロナウイルスの感染拡大で私たちの生活がさまざま変化しましたが、なかでも大きく変わったことの一つが、海外との行き来が不自由になったことだと思います。研究者にとって、国際会議で最新の研究内容を発表したり、世界の研究動向を知ったり、海外の研究者と交流することはとても大切です。私はこれまで毎年数回は海外に出張してきたのですが、何度も渡航していると、時には大きなトラブルに遭遇することもあるわけで…。(物質構造科学研究所 瀬戸秀紀)

飛行機で欧米に行くとたいてい途中で乗り継ぎがあります。日本から直行できるヨーロッパの都市は、フランクフルト、パリ、ロンドンなどいわゆる「ハブ空港」に限られ、それ以外の都市にはこれらのハブ空港で乗り換えなくてはなりません。ハブ空港には巨大なターミナルがいくつもあり、限られた時間で空港の端から端まで移動しなくてはならなかったり、あるいは急なゲート変更があったりするので、いつも緊張します。でも、危険なのはむしろ余裕がたっぷりある時なのです。

2016年6月のことです。スウェーデンのルンドで開かれた、中性子と食品科学に関する研究会に参加した帰りのことでした。コペンハーゲン空港からイスタンブール空港に到着したのは午後11時前。乗り継ぎのターキッシュ・エア成田便の出発予定時刻は深夜1時過ぎだったので、いったんラウンジでパソコンを開いて日本からのメールを見ながら仕事をしていました。そしてパソコンの時間表示で出発時刻の1時間前になったのを確認して、ゲートに向かいました。

ところが、ふと空港の時計を見ると時刻は1時過ぎ。あれぇ何でぇ、と考えたのはわずか数秒。北欧とトルコの間に時差が1時間あることをすっかり忘れていたのです。やばい、と心の中で叫びながらゲートまで走ったものの、成田行きの便のゲートはとっくに閉まっていて、私は置いてけぼりを食らいました。

結局、翌日の便のチケットを買い直して1日遅れで帰国することになりました。でも、良いこともありました。ターキッシュ・エアは乗り継ぎ時間に余裕がある乗客を対象に、無料のイスタンブール市内ツアーを提供しているのです。図らずもそのツアーに便乗し、ブルーモスクなどの名所巡りができました。乗り遅れたおかげで帰国予定日翌日の法事を欠席して家族には思いっきり迷惑をかけたのですが、めったにない経験ができました。

ヨーロッパでの乗り継ぎミスの経験は他にもあります。余裕を持ってゲートに行っていたにも関わらず、うっかり眠り込んでしまって気付いたらゲートが閉まっていた、と言うことも。そんなトラブルはいくらでもありますが、私のとっておきの大トラブルといえば、何といっても「出発直前パスポート紛失事件」です。

某年某月某日、私はつくばエクスプレスに乗っていました。南流山で武蔵野線に乗り換えて東松戸から京成線で成田空港に行くためでした。短期間の出張なので荷物は少なめです。パソコンは持ったし、ACアダプタもあるし、パスポートケースにパスポートは入っているし…。ふと不安になってケースの中身を確認すると、何とケースの中が空っぽ。一瞬、頭の中まで空っぽになりました。そのまま成田空港に行っても飛行機に乗れないので、次の駅でつくば行きの電車に乗り換えて、家族に電話してパスポートケースを入れていた引き出しを確認してもらいました。ところが「いくら探してもないわよ」との返事。

家に戻って自分で探してもやっぱりない。パスポートなんて海外出張以外で使わないし‥、とよくよく考え、ハタと気付きました。そう言えば数カ月前、何かの手続きのためパスポートのコピーが必要になり、研究室のスキャナでコピーしたことを。その時にスキャナに置いたまま忘れたに違いありません。しかもそのスキャナ、少し前に廃棄処分でゴミ置き場行きとなったのです。翌日、恐る恐るゴミ置き場に行くと、スキャナは処分されずにそこにあり、その中にちゃんとパスポートがありました。雨に濡れて少々ブヨブヨになっていましたが、正真正銘、私のパスポートでした。思わず胸に抱きしめたことは言うまでもありません。

海外旅行はトラブルが付きもの、それも含めて楽しめば良い、と言うのも確か。実際のところ何ごともなく終わった出張よりも、何かに巻き込まれた時の方が心に残っているものです。ただ我々の出張は仕事で行くわけですから、何ごともなく帰ってきて当たり前。イスタンブールの時には当然始末書を出さねばならず、事務にも迷惑をかけているわけです。そう言う意味では、国際会議も打ち合わせもオンラインで済ませている今の方が、みんなハッピーだったりして!?

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