大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
日本製鉄株式会社
本発表のポイント
Question
現在の鉄鋼製造プロセスでは、酸化鉄(Fe2O3など)が主成分である鉄鉱石を石炭(コークス)から発生する一酸化炭素(CO)と反応させて、酸素を奪い(還元して)鉄にする反応が広く使われています。しかし、多量の二酸化炭素(CO2)を排出するため、省CO2な代替プロセスの研究が盛んに行われています。水素による還元鉄製造はその候補の一つであり、製造条件の設計には鉄鉱石の水素還元反応に関する情報が必要です。しかし、その反応によって生じる鉄鉱石内部の変化は極めてミクロ(数10nmオーダー)であり、その詳細を高精度に観察できる手法が限られていました。
Findings
最近、技術が進歩した放射光X線顕微鏡を用いて、水素還元途中における鉄鉱石粒子の鉄の化学状態(価数)を三次元で可視化することに成功しました。その結果、還元初期において、還元温度973Kでは水素ガス濃度勾配に沿った反応(topochemical)であるのに対して、1173Kでは結晶整合性を優先した反応(topotaxial)と、ナノスケールで反応モードが大きく変わることが解明されました。熱力学的考察を合わせて、鉄鉱石の水素還元反応に関する新知見を得ました。
Meaning
今回得られた知見にもとづいて反応モードを考慮することにより還元プロセスの最適化が期待され、CO2排出の少ない新しい製鉄法開発の足掛かりを得ることができました。

概要
KEK・物質構造科学研究所の研究グループと日本製鉄(株)・技術開発本部の共同研究グループは、放射光X線顕微鏡を活用して、鉄鉱石の水素還元メカニズムの新知見を得ました。水素を用いた鉄鉱石の直接還元は、CO2を発生しないカーボンニュートラルな製鉄方法として注目されています。原料である鉄鉱石(粒径:数10μm)内の鉄の化学状態が還元に伴いどのように変化するかを50nmの空間分解能で観察することに成功しました。
熱力学計算と合わせた考察の結果、還元温度973Kでは水素ガス濃度勾配に沿って反応が進行するモード(topochemical)であるのに対して、還元温度1173Kでは結晶整合性を優先する様に反応が進行するモード(topotaxial)と、反応モードが大きく変わることが判明しました。これは、今後の鉄鉱石の還元プロセスの制御指針につながる重要知見です。
今回の成果は 9月13日に専門誌Acta Materialiaのオンライン版に掲載されました。
詳しくは プレスリリース をご参照ください。
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