TYLスクール理系女子キャンプ2025を開催しました

4月3日から4月4日の1泊2日で、女子高校生のためのサイエンススクール「TYLスクール 理系女子キャンプ2025」を開催しました。このスクールは、KEK 男女共同参画推進室とToshiko Yuasa Laboratory(TYL)の共同企画として、お茶の水女子大学・奈良女子大学との共催で運営されています。 

Toshiko Yuasa Laboratory は、2006年に「日仏素粒子物理学研究所」として活動を始めた日仏連携研究所で、2010年からTYLと呼ばれるようになりました。この名前は、フランスを中心に国際的に活躍した女性物理学者 湯浅 年子(ゆあさ としこ)博士の偉業にちなんで名付けられたものです。この日仏共同事業では、共同研究のほか、科学技術分野への女性の進出を応援するための事業に取り組んでいます。 

理系女子キャンプでは、全国から応募し選ばれた30人の女子高校生が、KEKつくばキャンパスで実験やパネルディスカッション、施設見学ツアーなどへ参加します。それらを通して、進路について考え、ビッグサイエンスの現場を体験し、そこで活躍する女性研究者や技術者と交流する企画です。 

放射線を学ぶ

マリー・キュリーの足跡

入校式とガイダンスの後、このサイエンススクールのために作成した読み物「マリー・キュリーの足跡」を紹介しました。研究内容からノーベル賞受賞後の生活まで、マリー・キュリーの業績や人生がまとまっています。また、湯浅 年子 博士が、マリー・キュリーから大きな影響を受けただけでなく、マリーの娘イレーヌの指導の下、博士号を取得したことなど、キュリー家と深い関係があることにも触れられています。 

「マリー・キュリーの足跡」を読みあげる坪山 透研究員

霧箱を使った実験

その後、5人ずつ6班に分かれて霧箱実験を行いました。霧箱とは、放射線が通過した跡を飛行機雲のように目に見えるようにする装置です。

大型霧箱の制作に挑戦

放射線を効率よく観測するためには、ある程度の大きさの霧箱が必要です。今回、このスクールでは初めて、班でひとつ内寸約30 cmx50 cmx15 cm の大型霧箱の制作に挑戦しました。プラスチックダンボールやベルベットなどの準備された材料で、班で協力して制作。アルコールを入れて底をドライアイスで冷やします。しばらくしてから部屋を暗くしてライトを照らすと、自然界から飛んでくる放射線が見えるようになります。今回、初めての試みにも関わらず、すべての班が制作に成功。参加者たちは、自分で作った装置で目に見えない放射線を見ることができたことに「おおー」と声をあげて感激していました。 

素粒子と放射線について説明する救仁郷 拓人(くにごう たくと)特任助教
霧箱の外枠を作り、底にベルベットを張っているところ
制作のアドバイスをする西脇 みちる准教授
浅井 祥二KEK機構長も参入
霧箱を覗く参加者
霧箱で見えた自然放射線

観察結果から半減期を計算する

実験の後半では、製作した大型霧箱を用いて原子核の自然崩壊の測定に挑戦しました。ピストンで、気体であるラドンを霧箱の中に注入。 
飛跡の動画を撮影して、2つのアルファ線が連続して放出された痕跡、すなわちV字に見える飛跡を探しました。このV字の飛跡は、ラドン-220がアルファ崩壊してポロニウム-216となり、すぐに再びアルファ崩壊することで生じます。この時間差、すなわちポロニウム-216の生存時間を記録しその半減期を求めました。参加者たちは班ごとにテーブルを囲み、熱心にデータの解析を行っていました。30人分の測定値から求めた半減期は、文献値に近い値を示しました。 

霧箱にラドンを入れている様子
飛跡を動画に撮る参加者と野尻 美保子教授(中央)
V字型の飛跡
半減期測定の原理を説明する宇佐美 徳子(うさみ のりこ)特別教授
動画を確認してポロニウムの生存時間を計算しています
本キャンプ校長の岩瀬広准教授による解析の指導

教えて先輩!理系な女子会@KEK

夕食を挟んで、物理学や数学を研究している女子大学院生とのパネルディスカッションを行いました。まず、3人の理系女子の先輩たちがそれぞれ自己紹介や研究内容の紹介を行いました。研究のわかりやすい説明に、参加者は興味深そうに耳を傾けていました。その後、参加者からの質問に答えました。進路の決め方などについて、3人の先輩たちが丁寧に答えました。 

板谷 さくらさん(総合研究大学院大学・KEK)
小俵 亜紀さん(大阪大学大学院)
遠山 悠さん(お茶の水女子大学大学院)
参加者の質問に答える3人と司会の宮林 謙吉教授(奈良女子大学・KEK特任教授) 

女性研究者から理系への招待状

2日目の午前中は、第一線で活躍する女性研究者による講義でした。3それぞれ原子核実験、素粒子実験、数学 がご専門の下村 真弥准教授(奈良女子大学)、Cristina Carloganu Research Director(LPC/IN2P3/CNRS)、 佐々田 槙子教授(東京大学)が1時間ずつこれまでの研究のあゆみや研究内容をじっくりと語りました。参加者は真剣にメモを取りながら聞いていました。それぞれの講義後には、参加者からの質問が尽きませんでした。具体的な研究内容に対する質問から、海外での理系進学者のジェンダーバランスについてなど、幅広い話題が飛び交いました。 

下村 真弥准教授(奈良女子大学)
質問する参加者
Cristina Carloganu Research Director(LPC/IN2P3/CNRS)
佐々田 槙子教授(東京大学)

加速器体験ツアー

2日目の午後には2班に分かれてバスに乗り、KEKつくばキャンパス内の実験施設の見学を行いました。見学した施設は、日本最大の加速器「SuperKEKB」、放射光実験施設「フォトンファクトリー」です。

それぞれの実験施設で研究者が研究内容や実験の方法、実験に使われる装置の説明などを行いました。

軟X線を使った分析の説明をする阪田 薫穂(さかた かおるほ)准教授
新しく作るビームラインについて説明する若林 大祐助教
SuperKEKBの電磁石について説明する池田 仁美教授
SuperKEKBメインリングへ粒子を入射する部分について説明する飯田 直子教授

プログラムを終えて

見学の後に全員が集合して閉校式が行われました。KEKのDE&Iに関することを担当している、長野 裕子KEK理事、道園 真一郎KEK理事から激励の言葉が贈られました。 

長野 裕子KEK理事
道園 真一郎KEK理事

そして、一人一人が修了証書を受け取りました。

TYL のフランス側、日本側の代表者であるカリムトラベルシ教授(IN2P3)と橋本省二教授(KEK)から修了証が授与された

プログラムが終わっても、仲良くなった参加者同士で話し合う姿も見られました。このスクールでの経験が、また仲間との出会いがこれからの財産となることを願っています。

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