光で制御するデバイス開発に一歩 足立伸一理事らが「山崎貞一賞」を受賞

材料科学技術の先駆的な研究を表彰する2023年度の「山崎貞一賞」が発表されました。「計測評価分野」では、光で制御するメモリー開発などにつながる業績でKEKの足立伸一理事ら3人の受賞が決まり、2月28日の贈呈式で賞状と賞金300万円が贈られます。

「超高速動的構造観測装置開発と光機能物質開拓への応用」の業績で共同受賞するのは、足立理事と東京工業大学理学院化学系の腰原伸也教授、筑波大学数理物質系エネルギー物質科学研究センターの羽田真毅(はだ・まさき)准教授です。

実用化されているコンピューターのメモリーなど電子デバイスの多くは、電場や磁場をかけて物質の状態を変化させて制御します。しかし腰原さんは「同じことが光でできないわけがない」と考え、光が当たると物質全体の構造や性質が劇的に変わる「光誘起相転移」と呼ばれる現象を1991年に見つけました。

この現象の実験では、パルス状のレーザー光と、やはりパルス状の放射光を試料の同じ場所に超光速で当て、構造や性質の時間変化を観察します。放射光は加速器から生まれる極めて強い光のことで、この実験ではレーザー光の1万分の1ほどの波長を持つ硬X線を使います。パルス状の放射光は、超高速で点滅するストロボのような役割を果たします。

放射光を使う構造科学の専門家である足立さんは、腰原さんと協力し、この手法をKEKフォトンファクトリー・アドバンストリング(PF-AR)での実験で確立しました。

フェムト秒(1000兆分の1秒)程度という短いパルス幅のパルスレーザー光で起きた変化を、加速器施設で作った100ピコ秒(100億分の1秒)程度の放射光で撮影していくという画期的な取り組みで、2人はレーザーを当てた直後のごく短い時間だけ出現する物質の新しい構造を世界に先駆けて発見しました。

足立さんらはこの手法を生命機能分子や光触媒材料にも幅広く適用し、有用性・実用性を示してきました。羽田さんは腰原さんと協力し、ごく短いパルス状の電子線を使ってこの分野を発展させました。

足立さんらの成果は、光で制御するメモリーなど新しいデバイスの開発につながるものです。

足立さんは「我々の計測が成功するためには、光源加速器が常に安定に運転されていることが必須であり、多くの研究者、技術者に支えられています。KEKの物質構造科学研究所および加速器研究施設の研究・技術スタッフ、理化学研究所のX線自由電子レーザー施設SACLAの関係スタッフに心より感謝申し上げます」と述べています。

本研究に関連して、足立さんはKEKの野澤俊介准教授とともに「放射光X線による分子動画法の開発」により、第33回つくば賞を受賞しています。

山崎貞一賞は、東京電気化学工業(TDKの前身)の2代目社長を務め、磁性材料として広く使われているフェライトの事業化を行った山崎貞一氏にちなむものです。2001年に創設され、材料科学技術振興財団が毎年発表しています。

山崎貞一賞の表彰対象は「材料」「半導体及びシステム・情報・エレクトロニクス」「計測評価」「バイオ・医科学」の4分野で、2023年度は「計測評価」「バイオ・医科学」が対象でした。

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