科学に染まった冬休みーウィンター・サイエンスキャンプ2023を開催しました

2023年12月25日から28日にかけて、高校生・高専生を対象とした「KEKウィンター・サイエンスキャンプ2023を」実施しました。全国から24名の高校生・高専生が集まり、KEK内の宿舎で寝食を共にしながら研究体験をしました。3泊4日のプログラムの様子を紹介します。

自己紹介の様子

開講式での自己紹介では、参加者たちがキャンプへ応募したきっかけや思いを熱く語りました。その後、導入講義として広報室の青木 優美が「見えないものを見る挑戦」と題し、加速器を使ったKEKの研究を説明。続いて、アドバイザーの松島 毅先生(茨城県立取手松陽高等学校)と天目 直宏(てんもく・なおひろ)先生(茨城県立日立工業高等学校)が準備したアイスブレイク「スパゲティで橋をつくろう」で交流を深めました。

夕食を食べながらの「ディナーレクチャー」では、このキャンプの校長である加速器研究施設 植木 竜一助教が、自身の研究であるSuperKEKBについて紹介した後、最終発表会に向けたスライドの作り方や発表の仕方をレクチャーしました。

ディナーレクチャーの様子

1日目から3日目にかけて、「素粒子」「回折」「加速器」「放射線」をテーマにした4コースに分かれての実習を行いました。
 
「素粒子」のコースでは、宇宙線と呼ばれる、空から降ってくる素粒子「ミュー粒子」の速度測定にチャレンジしました。二つの検出器(シンチレーター)を製作し、オシロスコープと接続。ミュー粒子が二つの検出器を通る時間差を測定し、速度を計算で求めました。観測環境のノイズを減らすために鉛ブロックを置いたり、会場にある物で検出器の角度を調整したりと、工夫して実習をしました。

「回折」のコースでは、光で物質(結晶)の構造を見る方法を学びました。KEKフォトンファクトリーでは X線が物質の原子に当たることで起こる「回折」という現象を使って物質の構造を特定することができます。今回の実習では、レーザーをX線に、回折格子を原子に見立て、構造解析を体験しました。

「加速器」のコースでは、加速器の実験でも欠かせない、同軸ケーブルの信号伝送速度を測定しました。信号源から発信した信号がオシロスコープに到着するまでの時間を、基準ケーブルと試験ケーブルで比較することで、試験ケーブル内の材質の伝達速度を計算します。ケーブルの材質や長さを変えながら信号の伝送速度の違いを調べました。

「放射線」のコースでは、放射線の性質を学び、電子の見かけの半径を測ることに挑戦しました。放射線検出器の回路を製作し、放射線源と検出器の間に遮へい体を挟み、物質ごとの放射線の通しやすさを測定しました。アルミニウムやガラスのほか、水を遮へい体として使ったらどうなるかを調べるため、水分含有量の多い大根でも測定をしてみました。測定から、電子の見かけの半径を計算し、物質によって変わらないことを確かめました。

実習の合間にはKEKの施設見学も行いました。
 
世界最大の衝突性能を持つSuperKEKBの測定器Belle IIと、フォトンファクトリーを見学しました。Belle IIの見学ではその大きさに驚きの声が上がりました。フォトンファクトリーではビームラインと測定装置を間近で見学し、実験の現場を体感しました。

2日目の夜は交流会を行い、親睦を深めました。アドバイザーの宗形 操(むなかた・みさお)先生(茨城県立坂東清風高等学校)、森作 実玖也(もりさく・みくや)先生(茨城県立麻生高等学校)によるレクリエーション「ウソあり自己紹介」のゲームで盛り上がりました。

最終日にこれまでの3日間の成果を発表し合いました。他のコースの参加者にも実験の内容と結果が伝わるように、発表の仕方や順序を工夫していました。どのコースも堂々と発表し、質問にも臆せず答えていました。

昼食を挟み、閉講式が執り行われました。参加者たちは、キャンプに参加したスタッフからコメントをもらい、『未来の博士号』と書かれた終了証を受け取りました。

プログラムが終わっても名残惜しそうにホールに残っている姿が印象的でした。

 
ウィンター・サイエンスキャンプは、科学技術振興機構(JST)の委託事業として2006年に始まり、2015年からKEKの主催事業になりました。2023年度は前年度に引き続き、寄付金による事業として実施しました。 KEKに高額のご寄付を頂いた個人および法人関係者の方々をお招きし、機構長から感謝状などをお贈りする「機構長主催 感謝の集い」の一環として、ウィンター・サイエンスキャンプの見学を行いました。改めてご寄付に感謝いたします。また、長きにわたりアドバイザーとしてご協力いただいている茨城県の県立高等学校の先生方にも感謝申し上げます。

KEKでは、本キャンプの他にも、4月初旬ごろに女子高校生向けの「TYLスクール理系女子キャンプ」、8月初旬ごろに高校生向け素粒子サイエンスキャンプ「Belle Plus(ベル・プリュス)」を開催しています。

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