理系女子キャンプ2023を開催しました

理系女子キャンプ2023の参加者たち

高エネルギー加速器研究機構(KEK)では、お茶の水女子大学・奈良女子大学との共催で女子高校生を対象とするスクール「TYLスクール 理系女子キャンプ」を開催しています。もっと多くの女性研究者が活躍する社会を目指し、まずは女子高校生に科学や科学者に興味を持ってもらうことを目的としています。

KEK内では男女共同参画推進室とToshiko Yuasa Laboratory(TYL)が中心になって、この企画に取り組んでいます。TYLとは、KEKとフランス原子核素粒子研究所、フランス宇宙基礎科学研究所との共同事業である仮想ラボで、その名称は昭和期にフランスに渡って活躍した日本人女性物理学者の先駆けである湯浅年子氏にちなんだものです。このキャンプは女性研究者の育成を念頭に置いたTYLの活動の一環です。

今年の理系女子キャンプは、4月3日から4日の1泊2日で行われました。全国から応募した女子高校生の中から30名がKEKつくばキャンパスに集まり、キャンパス内の宿泊施設に泊まって、プログラムに参加しました。

科学実験

入校式とガイダンスの後、3人ずつ10班に分かれて放射線を観察する実験に挑戦しました。放射線を目視できる霧箱という装置を使った実験です。

まずは、あらかじめ準備された材料を使って霧箱を手作りしました。初対面の参加者同士で、アイデアを出し合ったり分担したりして一つの実験装置を作り上げます。自然放射線が見えると「すごい、すごい」と歓声が上がりました。

次に、展示用の大型霧箱を用いた実験に挑戦です。ラドンを含んだ空気を霧箱に少しだけ注入すると、ラドン-220の崩壊で出るアルファ線を観察できます。そのようすを班ごとに動画撮影しました。2つのアルファ線が連続して出たものを動画から探して、ラドンが崩壊してできるポロニウム-216の生存時間を測り、その分布から半減期を求めます。
さらに、10班がそれぞれ得た生存時間データを集めて半減期を求めると、知られている値を見事に再現することが分かりました。

研究者・女子大学院生とのパネルディスカッション

このキャンプには女子大学院生3名がスタッフとして参加しています。年齢も近い理系の先輩として大学院生がパネラーとなり、パネルディスカッションが行われました。

参加者からは「大学院まで進むかどうか迷っていたので(大学院生の)話が聞けてとてもよかった」、「理系に進み、研究者になりたいという思いが強まった」などの感想が聞かれました。

パネルディスカッションのようす(左から、奈良女子大学の宮林謙吉教授、柴田眞侑さん(お茶の水女子大学大学院)、荷見遥さん(奈良女子大学大学院)、窪田雅弓さん(総合研究大学院大学))

女性研究者によるレクチャー

2日目の午前中は、女性研究者の講義の時間です。まず、森林研究・整備機構森林総合研究所と筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の2か所に勤務する研究者 森田えみさんが、睡眠研究と森林浴研究について話しました。次に、KEK 素粒子原子核研究所の浦川優子准教授が、138億年の宇宙の歴史と、いま研究を進めている謎について話しました。

講義後の質疑応答の時間には、会場から次々と手が挙がり質問が相次ぎました。

実験施設見学

2日目の午後は、バスに乗ってKEKつくばキャンパス構内の実験施設3つを見学しました。

放射光を使って物質や生命を調べるための実験施設フォトンファクトリーの加速器と実験ホール、1周3 kmの地下トンネルの一部を歩いて見学する電子・陽電子衝突型加速器(SuperKEKB)、SuperKEKBによって電子と陽電子を衝突させ、反応を観測する大型測定器(Belle Ⅱ)を、それぞれの研究者の説明を受けながら見て回りました。

参加者たちは、それぞれスマートフォンで撮影したり、質問したりしながら、見学ツアーを楽しんでいました。物理が苦手だという参加者は、このツアーを通して、研究所ではさまざまな人が自分の得意分野を生かして働いていることを知り、「進路を考えるアイデアと希望が増えた」そうです。

加速器体験ツアー(SuperKEKBトンネル見学)のようす

プログラム終了後、閉校式が開かれ、参加者それぞれに修了証書が手渡されました。KEKに来てすっかり打ち解けた参加者たちは、名残惜しそうに会場を後にしました。

大学院生や研究者、技術者になって、またKEKに戻ってくるのを楽しみにお待ちしています。

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