国際将来加速器委員会、ヒッグス・ファクトリーとILCについてステートメントを発表

国際将来加速器委員会(ICFA)は4月10日付でヒッグスファクトリーの進展とILCに関するステートメントを発表し、ILCの実現を引き続き奨励しました。

ICFA声明全文(英語)

KEKでは今回のステートメントに基づき、国際コミュニティとともにILC実現にむけて努力します。

KEK仮訳

ヒッグス・ファクトリーの進展とILCについてのICFAステートメント

将来加速器国際委員会(ICFA)は先般、高エネルギー物理学の国際的な進捗と計画について検討する会合を開催しました。 ICFAは、素粒子物理学の科学的目標を実現するための最優先事項としてヒッグスファクトリーが重要であるとする、国際的なコンセンサスを再確認します。 この見解は、これまでの世界の素粒子物理学研究施設での実験結果でますます強く裏付けられています。さまざまな技術に基づくいくつもの設計研究が進められるなか、円形衝突型加速器(FCC-eeとCEPC)と線形衝突型加速器(ILCとCLIC)の双方が検討されています。 ICFAは、世界のヒッグスファクトリー提案の開発状況を把握し、それらの概念を発展させることが重要と考えています。

最近完了したものや進行中であるものがありますが、ICFAはまた各地域における計画づくりが重要であることも再確認します。各地域における活動は、素粒子物理分野の世界的戦略を何十年にもわたり支えてきました。 実際、欧州素粒子物理学戦略が2020年に改訂されたのを受けて、欧州地域では現在FCC-eeの実現可能性を探る研究(フィージビリティ・スタディ)に着手しています。 ICFAは、米国、中国、その他の地域で進行中の戦略策定活動の結果が出ることを待ち望んでいます。

国際リニアコライダー(ILC)についてICFAは、その概念が技術的に確固たるものになり、成熟もしてきたことで、ILCのタイムリーな実現に向けた工学設計研究へと進むことができるとの立場を再確認します。 実際、世界中の最近の加速器プロジェクトは、基礎的な超伝導加速器技術の即応性を裏付けるものです。

ICFAは、国際推進チーム(IDT)の枠組みで、日本でILCをさらに進展させ実現させることを目指したグローバルな研究者コミュニティの活動の調整に、来年にかけて引き続き取り組みます。 IDTは、研究機関の間の国際協力をさらに強化するとともに、さまざまなステークホルダーからのより幅広い支援の獲得に特に注力することになります。ICFAは、リソースの利用可能性と国際的な議論の進展を評価するために、今後一年間の進展を注意深く見守ります。

ICFAは、重要な研究開発活動に向けた国際協力とILC実現に向けた調整を推進するために、日本とパートナー候補となる国との間の政府間協議に向け働きかけを続けます。

2022年4月10日

ICFA:国際将来加速器委員会(ICFA:International Committee for Future Accelerators)
高エネルギー物理研究に用いる加速器の建設と運用における国際協力の促進を目的に設立された組織。 高エネルギー物理研究に関与する世界各地の専門家から構成されており、現在の委員は16名。

国際リニアコライダー(International Linear Collider: ILC)

対面する2つの線形加速器で構成されているILCは、電子とその反粒子である陽電子を加速して衝突させます。 絶対零度に近い温度で運用される超伝導加速器空洞は、加速器の中心にある検出器の中で衝突するまで、加速して粒子にエネルギーを与えます。 本格運用時には、電子と陽電子のビームが1秒間に約7,000回、250ギガ電子ボルト(GeV)の重心系衝突エネルギーで衝突し、大量の新たな粒子が生成されます。 それらの粒子はILCの測定器で捉えられ記録されます。 それぞれのビームには、人間の髪の毛よりもはるかに小さい領域に200億の電子または陽電子が集中しています。 このことにより、粒子の衝突頻度は非常に高くなります。この高い「ルミノシティ」と、衝突する粒子から起こる非常に正確な相互作用により、ILCは、欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)で2012年に発見された、ヒッグス粒子などの性質を詳細に測定するための豊富なデータを取得することができます。また、暗黒物質のような物理学の新しい領域にも光を当てることができます。ILC国際推進チーム(IDT)は、日本におけるILC実現に向けて、世界の科学者・エンジニアによるILCの国際的な研究開発活動をとりまとめています。