世界へはばたけ、研究者の卵/理系女子キャンプの10年

2月11日は国連の「科学における女性と女児の国際デー」の日です。より多くの女性や女児が科学技術分野で活躍できる機会を増やすことを目指し、2015年に制定されました。KEKはその考えを先取りする形で理系女子キャンプを2012年に始め、今年で10周年となります。

KEKと協力している欧州合同原子核研究機関(CERN)は、国際デー前の時期に女性研究者や女性技術者を近隣の学校に派遣し、「どのようにして今の仕事に就いたのか」や「研究について考えていること」などを話す活動を続けています。KEKも行っている出前授業やキャラバンに近いものといえるでしょう。

さてKEKの理系女子キャンプですが、こちらは2012年に第1回が開催されました。

国際共同研究の多いKEKは、フランスが海外の研究所と組んでつくるバーチャルラボの一つを2006年に設立しました。そのラボに名前を付けようということになり、フランスを拠点に国際的に活躍した東京出身の実験物理学者・湯浅年子博士(1909~1980)にちなむToshiko Yuasa Laboratory(TYL)に決まりました。

その名前にふさわしい事業の一つして始まったのが、理系女子キャンプでした。湯浅博士のような女性物理学者を育てよう――でもそもそも理系研究者になる女性を増やさないと始まらないから、ということでした。キャンプはKEKとTYLの共催です。

2018年の理系女子キャンプの参加者たち

全国から集まった女子高生が1泊2日の日程でKEKつくばキャンパスに集まり、先輩の女性研究者や大学院生の話を聞いたり実験施設の見学をしたりして、進路を考えるきっかけにしてもらいます。女子高生の人気は高く、競争率が数倍になるときもあります。

伝統的に行われてきたのは「卵落とし」です。女子高生がグループに分かれ、ボール紙や輪ゴム、ビー玉など決められた材料を使い、数メートルの高さから生卵を落としても割れないように独自の装置を工夫します。

2018年の理系女子キャンプでの卵落としの様子。会場はつくばキャンパス4号館

KEK物質構造科学研究所の宇佐美徳子講師と特別技術専門職の大島寛子さんは、キャンプが始まったときから、スタッフとしてキャンプに参加してきました。

「練習用」のゆで卵

宇佐美さんは「必ずしも理系に進んでくれなくても、科学に理解のある大人になってくれればうれしい」、「不思議の国のアリス」がモチーフのポスターを毎年制作してきた大島さんは「先輩研究者に触れ、世界が広がるきっかけになれば」と話します。2日目の午後に修了証書が渡され解散したあとも、参加者同士がなかなか帰らない光景を何度も目にしたそうです。

2日間の日程を終えると授与される修了証書

今年のキャンプは4月3日と4日にあります。伝統の卵落としは、参加者が密になりやすいことを考慮して中止になりました。

その代わりにKEK素粒子原子核研究所の救仁郷拓人特任助教らが企画しているのが、放射性元素の研究でノーベル物理学賞と化学賞を受賞したマリー・キュリーが没頭した世界を女子高生に追体験してもらう実験です。詳細は当日のお楽しみとのことですが、先駆的な女性科学者の仕事をたどることは、キャンプにふさわしい経験になりそうです。

スタートして10年なので、キャンプ出身者が理系の研究に実際に進んだかどうかはまだわかりません。ただキャンプ立ち上げに関わった幅淳二KEK理事は「技術職員の採用で『私はキャンプ出身です』という人もいます」と話し、手ごたえも感じています。

とはいえ、内閣府が昨年発表した男女共同参画白書によると、日本で研究者に占める女性の割合は、緩やかな上昇傾向にあるものの2020年3月で16.9%にとどまり、諸外国と比べて低さが目立ちます。社会の高齢化や気候変動への対応といった大きな課題の解決にはあらゆる才能、とりわけ女性を取り込むことが必要とされているにも関わらず、です。

KEK素粒子原子核研究所の野尻美保子教授(男女共同参画推進者)は「日本はまだ女性の職業に対する固定観念や(無意識の)バイアスが強く、親や教師、社会が変わらないと現実は変わりません。潜在能力が奪われているという理解をする必要があります」と話します。

挑戦は続きます。

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