益川敏英さんへKEKからの追悼メッセージ

ノーベル物理学賞受賞の記者会見で記者の質問に答える益川さん(2008年10月10日)

2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英さんが7月23日にご逝去されました。KEKには、同時受賞した小林誠特別栄誉教授を始め、益川さんから研究に関して指導いただいただけでなく、その飾らない包容力ある人柄に魅せられた人たちがたくさんいます。ここに、広報室に寄せられた追悼メッセージを紹介いたします。

小林誠・KEK特別栄誉教授

「益川さんとは大学時代からの付き合いで、私より5年ほど先輩でした。そこでは、たいへんいろいろなことを学びました。彼は独特の論理を持っており、彼と議論することがとても有益でした。最後にお会いしたのは数年前、日本学士院の定例の会合だったと思います。体調が悪いとは前から聞いていたので心配していましたが、とても残念でなりません」

髙﨑史彦・KEK名誉教授

「私が益川さんに始めて会ったのは田無(現在の西東京市)の東大原子核研究所で、私が大学院生の時でした。彼は理論屋でしたが、理論屋特有の偉ぶったところがなく、いつも『俺はたいしたことしていないよ』という素振りで我々を持ち上げてくれる、私にとってとてもありがたい人でした。私が実験計画を提案するといつもサポートしてくれました。2008年、小林・益川両博士のノーベル賞受賞式にも同行させていただきましたが、益川さんのいつもと変わらぬ堂々としたスピーチの様子は、いまでも私の目に焼き付いています。私は小林・益川理論の証明に研究人生の多くを捧げてきましたが、もし小林・益川理論がなかったら、私の研究人生はあまり意味がないものになったことでしょう。昨年までよく京都でお会いしましたが、とてもお元気だったので、亡くなったことが信じられません。心からご冥福をお祈りいたします」

山内正則・KEK機構長

「益川先生の飾らないお人柄や率直な話しぶりに加えて、他人に丁寧に接する姿勢を大事にされた方であったことが印象深く思いだされます。小林誠先生とともにノーベル物理学賞を受賞されたのは小林・益川模型の提案から35年も経ってからでしたので、ご本人に当時のことを伺ってもまるで他人事のように話されるのも、逆に先生らしいと感じたものでした。日本の高エネルギー物理学実験に関して、日本人は元来農耕民族なので協力し合って大きな仕事を成し遂げるのは得意なのであるとおっしゃっていたことも印象に残っています。益川先生の物理学への貢献に対してあらためて深い敬意を表します」

飯嶋徹・名古屋大学/KEK教授

「益川さんが小林さんとともに取り組まれたCP対称性の破れに関する研究が着火点となって、Bファクトリー実験を行い、さらに標準理論を超える新物理の発見を目指して、千人を超える研究者とともにKEKでBelle II実験を進めています。お別れは寂しい限りですが、益川さんの励ましを胸にとめプロジェクトの成功のために邁進したいと思います。個人的には大学生の頃は雲の上の存在だった益川さんと色々と親しくお話しできる機会ができたのは大変嬉しく、色々と教えて頂きました。その教えの一つが、『先生』ではなく『さん』と呼べというものでした。益川さんのご冥福をお祈りします」

以上