【KEKのひと #28】「10年後には何者かになれているんだろうか?」青木優美(あおき・ゆうみ)さん

「未来を予測する学問は物理しかない」と語る青木優美さん(撮影:高橋将太)
「未来を予測する学問は、物理しかないと思うんです」。そう力を込めるのはKEKつくばキャンパス内にある総合研究大学院大学(総研大)高エネルギー加速器科学研究科2年の青木優美さん。「卒業後の進路は未定」という彼女自身の未来は、物理で予測できるのか?
物理の魅力、今考えていることなどを聞きました。

―現在のどのような研究を?

「日本に建設が検討されている次世代の線形加速器『国際リニアコライダー(ILC)』の測定器部分の開発に携わっています。荷電粒子の飛跡をとらえて運動量を求めたり、種類を区別したりするものです。ILCができた時に何がわかるのかというシミュレーションもやっています」

―物理に興味を持ち始めたきっかけは?

「高校3年生の時、たまたま進路室で『神の素粒子』という本を見つけました。神の素粒子とはヒッグス粒子のことで、ほかの素粒子に質量を与えると言われている謎の多い素粒子です。装丁がきれいで手に取ったのですが、それがおもしろくて。大学は上智大学の理工学部に進学し、学際的にいろいろ学びました。大学3年生の時、総研大の説明会に行き、新しい実験ができると聞いてこちらに進学しました。また、ILCは計画段階の実験なので、自分のアイディアで変えられると聞いてテーマに決めました」

―高校生のころはどんなことを?

「調理部に、生徒会で会計、放送部、軽音部でギター、子どもたちのキャンプの引率ボランティアなど、いろいろやりました。いろいろやっているけど、長く続いているものはなくて。器用貧乏ってやつです(笑)あと、実は高校のころは物理が苦手で、試験で12点取ったこともあります」

―そんな物理の魅力はなんでしょう?

「始点と終点があれば、その最短距離を通っていくルールを最小作用の原理と言います。その物質の未来の動きを予測することもできるわけですね。このように物理は、物質を形作る粒子の全ての動きが数式に当てはめて分かります。すべての法則をひもとく方程式を『ラグランジアン』といいます。高校のころ覚えるだけだった公式の使い方、導き出し方がわかると、とてもおもしろいです」

サイエンス・カフェの講師も務める

―イベントでの講演などもされていますね。

「昨年の6月に先輩の代わりで、一関市のイベントに講演に行ったのがきっかけでした。子どものころは人見知りであがり症だったので、それを考えると人前で話しているなんて、信じられないです。高校生のころキャンプで子どもに星のこととかを教えていましたが、その経験が役に立っています」

―ILCの建設が決まれば、準備、建設に約15年かかるとして、研究の中心を担う世代ですね。

「ILCができれば、ヒッグス粒子の精密測定ができます。私がこの分野に来たきっかけになった『神の素粒子』の正体がわかるかもしれません。それがわかるまでは、私の人生も終点への最短距離を探すには途中の条件が変わるかもしれませんが、私にとってのラグランジアンを追い求めていきたいです」

―ありがとうございました。

(聞き手 広報室・牧野佐千子)

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