【2024年度】第3回物構研コロキウム『文化財科学からみた文理融合研究における量子ビーム利用への期待— 非鉄金属生産技術を事例に —』

開催日時

2024/10/07(月)15:30〜16:30

開催場所

つくばキャンパス(4号館 セミナーホール) & zoom

講演者

沓名 貴彦 (国立科学博物館理工学研究部)

言語

日本語

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文化財科学からみた文理融合研究における量子ビーム利用への期待 -非鉄金属生産技術を事例に-

発表者は、三宅康博・下村浩一郎・竹下聡史・梅垣いづみ・反保元伸(KEK物構研ミュオン)、齋藤努(国立歴史民俗博物館)らと、負ミュオンを用いた非破壊深さ方向分析を文化財に応用し、様々な成果を挙げている。KEK・歴博による“大学共同利用機関法人 機構間連携・異分野間連携研究プロジェクト(2018年度〜2022年度)”で始まった文理融合研究に2018年度途中から参加し、KEK物構研が獲得した文理融合研究の概算要求などによって、文化財の非破壊調査とともに負ミュオン分析技術の高度化や文化財利用への基盤整備に関与し、提言も行ってきた[1]。


文化財科学(保存科学)と呼ぶ学際領域が発表者の研究分野であり、実物資料への非破壊調査による非鉄金属生産技術の解明を中心に、材料生産技術の歴史的変遷などを行っている。


負ミュオン分析では、戦国期の出土遺物の金製品に着目して表面処理技術“色付け”の実施状況とその源流解明を目的に、負ミュオンによる非破壊深さ方向分析を行っている。最初に調査した金貨(蛭藻金)は、90wt%前後の高品位のため当時のシステムでは濃度変化の確認が困難であり、その後の分析システム高度化の礎となった。新システム(半球チャンバー)で実施した沖縄・首里城跡出土の金貨(厭勝銭)では、XRFで濃度が異なる3種類の金貨をグループ化して負ミュオン非破壊深さ分析を行った結果、いずれも表面から内部にかけて濃度変化を確認する極めて優位な結果を得た[2]。この時点では高品位の小型資料の濃度変化測定は厳しいとみられたが、現在はビーム出力もさらに向上しており、可能かも知れない。加えて新型検出器も検討しており、今後期待がされる。


普段の研究対象は、遺跡から出土する非鉄金属生産に使用された坩堝などである。これら遺物にXRFなどを用いて資料表面に付着する金属や不純物の状況を確認し、使用材料や目的、技術などを知る手がかりとしている。これまでに、甲斐金山における金生産技術と金流通の解明、石見銀山における銀生産技術や銀流通の解明を行っている[3]。しかし、研究室レベルのXRFでは出力が限られるため、高エネルギー側のスペクトル検出は困難であった。今後は放射光によるXRFマッピングを検討したいと考えている。その場合の問題点等について、本研究会では議論や教示をお願いしたい。


量子ビームは、非破壊調査を中心とする文化財分野への親和性・有用性は非常に高い。しかし、実験申請や安全教育など各種手続き、高エネルギーによる資料の放射化などの影響、調査及び保管環境といった数多くのハードルがある。そのため、放射光や中性子でも一部の研究者が活用している。実験者が十分に施設や実験内容を理解する場の提供とともに、文理融合研究に向けた環境整備を期待したい。これらについても、議論できればと考えている。


[1]沓名(2023)日本中間子科学会誌, 57, 26-31 [2]現在まで8回開催した文理融合シンポジウム(KEK物構研主催)の各Proceedings参照 [3]沓名(2021)関西考古学研究, 27, 1-12